
家庭学習の不安は新聞で解消!東大合格・ドラゴン桜監修者が語るニュースと勉強の相性の良さ
学校や塾での学習にデジタル教材や生成AIが身近になる中、子どもにどんなアドバイスをしたらよいか不安や迷いを感じている保護者も多いはず。生成AIに聞けば答えがすぐに手に入る今だからこそ、考える力や頭で考えたことを適切な言葉で表現する力の育て方が問われています。そこで役立つのは、実はアナログな「新聞」。この記事では、教育のデジタル化が進むAI時代に必要な学びの姿勢や、自宅で取り組める家庭学習のコツについて、漫画「ドラゴン桜」の登場人物のモデルにもなった西岡壱誠さん(カルペ・ディエム代表)に話を聞きました。
子どもの学びの土台は家庭学習でつくる

デジタル教材や生成AIが「自分で考える経験」を奪っている
ーー近年、学校現場でもデジタル教材や生成AI(人工知能)の活用が進んでいます。子どもたちの学び方は以前と比べてどのように変わってきたと感じますか。
デジタル教材や生成AIの活用が進み、一見すると学習環境は良くなったように感じます。しかし2024年に文部科学省が発表したデータでは、小学6年生・中学3年生ともに学力の低下が見られ、必ずしも成果につながっていない現状が見えてきました。
デジタルツールで調べることのメリットの一つは、答えにたどり着くまでの時間を極端に短くできることです。ただ、検索すれば正解らしきものがすぐに出てくるため、「分からない状態」に踏みとどまり、考え続ける経験が減っています。自力で調べる、試行錯誤する、頭で考えたことを紙に書いて整理するといった過程が省かれやすくなり、その積み重ねが考える力の低下につながっている可能性もあると感じています。デジタルの良さだけでなく、効率化で失うものにも目を向ける必要があります。
考える力を重視する傾向は、入試問題にもはっきりと表われています。これまでのように「何年に何が起きたか」を答える単純な形式から、なぜそう考えたのか、どの理由でその結論に至ったのかを問う応用的な問題へと移行しています。問題の質そのものが大きく変わってきていると感じます。
例えば、中学入試では「どうやったらコーヒーを美味しく入れられるか」といった問いが出されています。東大入試でも、日本はなぜカボチャをニュージーランドとメキシコから輸入しているのかを論述させる問題や、市町村合併で吸収された旧行政区にどんなマイナスが生じるかを市長の立場で考えさせる問題が出されました。正解が一つに定まらず、考える過程そのものが評価されるため、塾に頼れば簡単に伸びるという話ではありません。
すぐに答えを求める子は学力が下がる
ーー教育環境の変化によって成績の伸び方にも以前との違いを感じることはありますか。
はい、成績の伸び方にも大きな変化を感じます。以前は、勉強時間をかければ点数も比例して上がっていくイメージがありましたが、今はそうではありません。10時間やっても20時間やっても変わらないのに、ある日突然一気に伸びる。実感としては、途中に踊り場がある階段のような上がり方です。
大学入学共通テストの対策で言えば、高得点を狙うには半年以上かかるというデータがあります。これは共通テストが「迷わせるテスト」だからです。知識量だけを頼りにすると「こちらの可能性もあるのでは」と考え始め、簡単に選べなくなります。つまり、論理的に答えを導く思考の型に慣れるには一定の時間が必要ということ。だからこそ、大人がこの成長のリズムを理解しておくことが大切だと思います。
ーー生成AIを使う場面で、家庭や子どもが特に気をつけたほうが良い点は何でしょうか。
生成AIは無理に遠ざける必要はなく、普通に使ってよいと思います。ただし、それを完全な答えだと思わないことが大切です。分からない問題に対して、いきなり「答えを教えてください」と聞く子ほど学力が下がる傾向があります。
大事なのは、聞き方です。「ヒントを出してください」「ここまでは考えたけれど、この先が分からない」といった形で使うと、学び方が変わってきます。考える途中を言葉にしながら、補助的に使うことで、思考のプロセスを省かずに済みます。生成AIは、答えを出す道具ではなく、考えを深めるためのパートナーとして付き合っていくことが重要だと感じています。
AI時代にこそ必要な「分からないに耐える力」
ーーAI時代に、子どもたちに特に身につけてほしい力はどんなものだとお考えですか。
私が最も大切だと考えているのは「分からない状態」に耐え、それを楽しめる力です。粘り強く考え続ける力や、あえて答えを出さない姿勢こそが、AI時代に必要な応用力の土台になると思っています。答えを出した瞬間に、学びはいったん終わってしまうからです。
例えば、四つの選択肢がある中で「答えは3だろう」と決めてしまうと、そこで思考は止まります。一方で、「本当に3なのか」「他の可能性はないのか」と考え続けると、学習はさらに深まります。
「分かった」「まだ分からない」という二つの箱があるとします。「この問題はもう理解した」と感じた瞬間に、問題というボールを「分かった」の箱に入れると、その時点でその問題についてはそれ以上考えなくなります。でも、「分かった」の箱には底がありません。ボールを箱に入れた瞬間に消えてしまうように、思考の材料も頭からなくなってしまいます。
一方で、「本当にこれで良いのだろうか」と感じたままにしておくのが、「まだ分からない」の箱に入れる状態です。この箱には底があります。ボールが箱に残り続けるため、いつでもボールを拾えます。つまり、頭の中で何度も転がしながら思考を深めていけるわけです。
自分が解いた問題をこの二つのどちらの箱に入れるかで、学びの質は大きく変わります。「まだ分からない」の箱を選ぶことで、考える時間が伸び、試行錯誤が生まれます。その積み重ねが、結果として応用力につながっていくと考えています。

家庭学習での親の心得「正解を教えるのではなく一緒に考える」
ーー親御さん向けの講演会や面談などの機会も多い西岡さんですが、どのような相談をよく受けますか。
最近多いのは「私のやり方は正しいんでしょうか」という相談です。核家族で一人っ子の家庭が増え、祖父母に聞いたり、上の子の経験を参考にしたりといったモデルケースが少なくなっています。そのため、正解が分からず不安を感じる方が多い印象です。
「最近の受験が本当に分からない」という声もよく聞きます。子育てや教育にはもともと明確な答えがない上、さらに学習方法の変化によって、親世代の経験がそのまま使えないと感じているのだと思います。
ーーそうした社会の変化に対応するために、家庭学習ではどのようなことが重要でしょうか。
家庭学習で大切なのは、問題が解けたかどうかだけで終わらせないことです。「確かに正解しているけど、どうしてこの答えを選んだの?」「なぜこの問題が解けなかったと思う?」と、親が問い掛け、振り返る時間を持つことが重要だと思います。
以前は「良く分からなかったから適当に3番を選んだら当たった」と言っていた子が、過程を問い掛ける対話を続けていると「実は2番にはこういう可能性があると思って迷った」「こう考えると3番が一番しっくりきた」と、自分の思考の流れを説明できるようになっていきます。振り返りと言語化を重ねることで、思考の整理が進み、結果として点数にもつながっていきます。
ーーでは、どのように子どもと話し合えばいいでしょうか。
まずは「親は正解を知っていなければならない」という勘違いを手放すことが大切だと思います。試験では選択肢の問題も出題されますが、社会に出てからぶつかる多くの問いには、そもそも一つの正解がありません。だからこそ、振り返りの場面で「いろいろな考え方があるよね」と一緒に考える姿勢が重要です。
ところが、親は無意識のうちに自分の期待する答えを求めがちです。子どもが違う答えを出した時に「それは違う」と否定してしまうことがあります。これは探究的な学びの観点ではあまり良い状態とは言えず、考える意欲そのものを失わせかねません。
親は答えを持っていなくても構いません。結果ではなく過程を振り返り、「どう考えたか」を一緒に整理する時間を楽しむ。その姿を見せることで、考える行為そのものに価値があるというメッセージが子どもに自然と伝わっていきます。
![家庭学習での親の心得「正解を教えるのではなく一緒に考える」[]親が問い掛け、振り返る時間を持つ」](https://np-labo.com/wp/wp-content/uploads/2026/02/home-study_04.jpg)
東大合格の家庭には新聞がある|思考力・読解力を高める教材に

教材選びで重要なのは「考える余白」があるかどうか
ーー子どもの思考力と言語化する力を伸ばすという観点では、どのような教材を選べばよいでしょうか。
教材選びで大切なのは「どれを選べば成績が上がるか」ではなく、考える余地が残されているかどうかです。昔の教科書は今ほど完成度が高くありませんでしたが、分からないことがあれば調べ、辞書や参考書も活用しながら、自分で教科書に書き込んで補いながら学んでいました。
今の教材は「これが答えです」と整理されすぎていて、生徒が書き込まなくなっています。その結果、記憶に残りにくく、勉強しているのに力が伸びない状況が生まれています。問題は質ではなく、思考が入り込む余白がないことです。
だからこそ重要なのが、物理的なメモ欄だけでなく、「どう考えるか」を委ねてくれる余白です。自分なりの考えを書き込み、答えを探す道しるべとして使える教材が、思考力と言語化する力を育ててくれると思います。
例えば、教材とはやや異なるかもしれませんが、東京大学の学生は新聞を読んでいる人が多いです。家庭で親と一緒に新聞を読んでいたというケースもよく聞きます。考える材料を与えてくれるツールとして新聞が持つ価値は高いと思います。
新聞は事実を社会的文脈とひもづけて理解できる
ーー教科書中心の学習と新聞を読む学習では、どのような違いがありますか。
一番大きな違いは、ストーリーがあるかどうかだと思います。教科書は事実や知識を体系的に学ぶには適していますが、どうしても無味乾燥になりがちです。例えば歴史の教科書では、偉人が亡くなった出来事が事実として簡潔に記されていますが、それ以上の広がりは見えにくいですよね。
でも時代劇ドラマでは、その偉人が亡くなった場面では慕っていた人が深く悲しむ姿や対立していた人物の野心が燃え上がる姿など、感情が動いた出来事やそれによる社会の変化まで描かれます。
新聞もこれに近く、出来事を社会の動きなどの関連情報込みで理解できます。当事者だけでなく一般の人がどう感じ、どう話していたかまで書かれている点も特徴です。事実をベースに人の感情や関係性、社会の影響を連動させて知ることで、物事を立体的に理解できるようになります。新聞を読むことでリアルな社会の出来事が「誰に、どんな影響を与えているのか」を考える材料になるので、理解が深まり学びにつながります。
アナログな新聞が「考えるきっかけ」を生み出す理由
ーーデジタル教材が広まる中、あえてアナログな新聞を家庭学習に取り入れることのメリットを教えてください。
新聞の価値は、大人が時間をかけて情報を整理し、分かりやすくまとめてくれている点にあります。インターネットやSNSでも情報は手に入りますが、記者が事実かどうかを確かめた質の高い情報を効率的に得るという意味では、新聞は一番優れたツールだと感じています。
何かを調べるならネットで十分、という考え方も理解できます。ただ、新聞には「何が重要か」を考え抜いた上で編集された情報が並んでいます。情報をどう整理し、どう捉えるかを自然と学べるのが大きな特徴です。
SNS・動画サイトとの違いで大きいのは、個人の興味関心に基づいたパーソナライズ機能の有無だと思います。SNSや動画サイトではアルゴリズムという仕組みが裏側で働いており、自分の興味ある情報が優先的に表示されるため、どうしても情報が偏りやすくなります。結果として、同じ考えや価値観の中に留まりやすい状況が生まれます。
その点、新聞は自分が最初から関心を持っていなかった分野の記事にも、偶然目が留まります。全く違う角度からの情報に触れられる、いわゆるセレンディピティーが起きやすいのです。ここで言うセレンディピティーとは「探していなかった情報に偶然出合うこと」です。自分の関心や考えとは違う情報に触れることで「そんな見方もあるのか」と視野が広がっていきます。
端的に言えば、Aだと思っている人がBに出合いにくいのがSNSで、Bに出合いやすいのが新聞だと感じています。この偶然の出合いが思考を深めるきっかけになる点に、新聞ならではの価値があると思います。

無理なく続く、新聞を使った家庭学習の始め方
ーーでは、具体的にどのように新聞を活用すればよいのでしょうか。
最初の一歩は、とてもシンプルです。親が読んで「これは面白い」「これはプラスになる」と感じた記事を切り抜いて、「この記事を読んでみて」と子どもに渡す。まずはそれだけで十分です。一冊のノートに渡した記事を貼って、その横に感想を書かせるのもよいです。
ちょっとした工夫をしている家庭もあります。新聞記事を冷蔵庫に貼って、子どもに対して「これを読まないと冷蔵庫が開けられない」というルールを作り、読み終わったらアイスを食べられる。こうした小さなインセンティブと組み合わせることで、読む行為が自然と習慣になっていきます。

記事の選び方も難しく考えなくて良いと思います。親自身が共感した記事や、素直に面白いと感じた内容で十分です。あるいは、親の職業に関係する記事でも良いでしょう。
今の子どもたちは、意外と親の仕事内容を良く知りません。新聞を通じて、親の仕事や社会との接点を知ることは、子どもの視野を広げる良いきっかけになると思います。
ーー新聞は日々の読み物という印象がありますが、教科の学習と結びつけることもできるのでしょうか。
はい、特に結びつけやすいのは社会科です。社会科の学習内容は新聞記事とリンクすることが多く、学びのツールとして使いやすいと感じます。
例えばロシアについて学んでいる時に、ロシアのウクライナ侵攻に関する新聞記事を一緒に読むと、知識が現実の出来事と結びつきます。特に地理は時事ニュースと相性が良く、新聞を通して学習内容を立体的に理解できます。

「新聞がある生活」でこれからの時代を豊かに歩む力を育てよう
AIに尋ねればすぐに答えが得られる時代になり「分からないまま考える時間」が失われつつあります。本当の学力は、早く正解にたどりつくことではなく、分からない状態で試行錯誤を重ねる中で育まれます。分からない状態に耐えながら考え続けることで、思考過程を問う入試への対応力も磨かれます。
家庭でも、親が「考え続ける習慣作り」をサポートしましょう。子どもに正解を求めるのではなく、親も一緒に考える関わり方が、子どもの思考力を伸ばします。自分の興味関心の外にある情報と出合いやすい新聞や、家庭で交わされる何気ない会話が、子どもの視野を広げ、物事の立体的な理解や思考の深まりにつながります。日々の小さな積み重ねを大切にしていきましょう。
株式会社カルペ・ディエム代表・西岡壱誠さん
1996年生まれ。偏差値35から東大合格を目指し、2浪を経て3年目に合格。その間に編み出した独自の教育ノウハウを生かした学習支援プログラムを提供する株式会社カルペ・ディエムを2020年に設立。全国の高校で学習法指導や教師向け支援を手掛けるほか、YouTubeチャンネル「スマホ学園」でも発信。漫画「ドラゴン桜」の編集やテレビドラマ版の脚本監修を務めた。著書「『考える技術』と『地頭力』がいっきに身につく 東大思考」「『読む力』と『地頭力』がいっきに身につく 東大読書」(いずれも東洋経済新報社)など多数。

-300x199.jpg)
