
3男1女全員を東大理科三類合格に導いた佐藤ママこと佐藤亮子さん(進学塾「浜学園」アドバイザー)。佐藤ママの教育メソッドに、新聞は欠かせないアイテムです。苦手な漢字、習ったばかりの熟語に丸を付ける。新聞を読んで気になったニュースを音読する。「言葉の宝庫」である新聞を使った家庭でできる教育メソッドを教えてもらいました。聞き手は、教育情報メディア・リセマムの加藤紀子編集長です。
新聞を使った「文字探し遊び」でひらがなを自然に習得

――4人のお子さん全員を東大理科三類(医学部)に合格させた佐藤さんの教育メソッドには「新聞」が欠かせない存在だとか。お子さんの学習に新聞をどう活用していたのでしょうか。
佐藤さん:私自身は、両親が新聞好きだった影響もあり、小学3年生の頃から新聞を読むようになりました。学校から帰ってくると2時間かけて朝刊を読み、夕刊が届くとまた読む、という日常でしたね。その中で、戦争で苦労され70代になってから夜間中学に通い字を習っている方の投書を目にしたことがあるのですが、大人になるとひらがなを習得するにも時間がかかると書いてあって。子どものころに基礎学力を身に付けておかないと、後で大変な思いをするんだなと子ども心に強く感じた記憶があります。
子どもたちがまだ文字を読めない時期から、新聞を身近な教材として使っていました。ひらがなを覚えさせたいときには、新聞を広げて「今日は“し”を探そう」「今日は“ふ”を探そう」と、子どもたちと一緒に文字探しゲームをしていました。小さな子どもにとって、新聞の紙は広くて扱いやすく、鉛筆を持って文字を探すこと自体が遊び感覚。気付かないうちにひらがなを覚えていましたね。新聞を広げて線路を書き、電車のおもちゃで遊んだりもしました。
ゲーム感覚で「勉強をやらされてる感」を減らす
佐藤さん:それから、新聞は“教科書代わり”としても本当に便利なんです。たとえば、子どもが何度も間違える漢字や言葉があったら、新聞の中からその文字を探して大きく赤で囲んで冷蔵庫に貼っておくんです。紙に書いたりノートにまとめたりすると“やらされてる感”が出てしまいますが、新聞に直接書き込むとそれがなく、学びのハードルが下がるんですよね。
当時は野球のイチロー選手が大活躍していた時期で、スポーツ欄をよく一緒に見ていました。そこには四字熟語や少し難しい言い回しがたくさん出てくるんです。学校や塾のテキストで出てくる漢字や言葉って、どうしても「覚えなきゃ」と義務的になりますよね。でも新聞の中で実際に使われていると、「あ、これ見たことある!」と自然に興味がわく。結果的に語彙や読解力の基礎づくりにもつながったと思います。
親が記事を読んで伝える「おしゃべり学習」で語彙を増やす

新聞を使った家庭学習の大切さを語る佐藤亮子さん(右)、聞き手は教育メディア「リセマム」の加藤紀子編集長=2025年10月19日、横浜市のニュースパーク(日本新聞博物館)、撮影:曳野若菜
――生活の中に新聞を通じた学びを取り入れる。佐藤家はリビングで新聞を広げて、佐藤さんがお子さんに記事を音読していたそうですね。
佐藤さん:親自身がまず新聞を広げてペラペラめくって見出しを眺め、「ここ面白いね」と子どもに話す。これだけでも、家庭の中に新聞文化が少しずつ浸透していきます。
私はこれを「おしゃべり学習」と呼んでいます。親が声に出して言葉を伝えていくことが語彙を自然に増やすポイントです。1面や政治、経済面ではなく家庭欄でも良いので、親が自分の興味のある記事を読んで聞かせるだけ。時間にして15分程度で十分です。
親の肉声で「子どもの耳に言葉を入れる」ことが大切
――新聞を通して親子の会話が生まれるのは素敵ですね。では、子どもの語彙を増やすために良い方法はありますか。
佐藤さん:子どもにとって、親の声は「ママ・パパが何か言っている」と意識しながら耳に入ります。テレビやタブレットからの音声ではなく、お父さんやお母さんの声で日常的に言葉を耳に入れていくことをおすすめします。だから、私は新聞を音読していたんです。
そういった意味でも新聞は言葉や知識の宝庫です。英語・数学・国語・社会・家庭科など、あらゆる分野の情報がぎゅっと詰まっていますし、10代から90代まで幅広い世代の意見や考え方が紹介されています。親子で新聞を読みながら、「これどう思う?」「こんなこともあるんだね」と会話を楽しむ。そんな時間こそが、新聞を最大限に生かすいちばんのコツだと思います。
たとえば、8月になると新聞が戦争の話を取り上げます。投書欄の戦争の話は毎年読んでいました。勉強が大変でも今こうして学べるのは日本が平和だからだと。「日本の新聞がこの時期に戦争の話を取り上げなくなったら日本は終わり、どこかに逃げなさい」なんて子どもたちに言うと、「どこに逃げれば良いの?」と聞かれたりして。結局は日本がいちばん平和で、平和は守っていこうという話になるんです。
新聞は関心領域や視野を広げてくれる存在
――最近は、親も子どもも自分のスマートフォンやタブレット端末を見ていて、家庭内の会話が減っているという話もよく聞きます。
佐藤さん:今や小学生や幼稚園児にとっても、スマホやタブレットは常に手元にある存在です。ちょっと見るだけのつもりがあっという間に時間が過ぎてしまい、その間勉強がまったく進まない。知識や基礎学力を身に付けるのは一定の勉強量が必要です。たとえば100時間のうち50時間をスマホに使ってしまう子と、すべてを勉強に使う子、どちらの学力が伸びるかは明らかですよね。私のスタンスとしては、少なくとも18歳まではスマホやデジタル機器に関しては少し厳しく接する方が良いと思っています。
最近は、動画やSNSなどで自分の関心のある情報ばかりに触れることが多くなっていますが、それでは知らず知らずのうちに考え方が偏ってしまいがち。
その点、新聞は自分の関心の外側にある世界を自然に見せてくれる存在です。幅広い記事に触れることで語彙が増えるだけでなく、子どもの視野もぐんと広がります。新聞は見出しの大きさや写真も工夫されていて、「これ何だろう?」と、つい目が留まることも多いですよね。私自身も、もともと興味のなかった分野の記事でも、見出しに引かれて読んでみたら「こんなことが起きているんだ」と驚くことがよくあります。
これから新聞を購読し始める人は、新聞をめくる習慣がつくのに1か月、どのページにどんな記事が載っているかわかるのに1か月、読んで子どもに話せるようになるのに1か月・・・。時間はかかりますが、慣れますよ。読み終わった新聞は、天ぷらの油を切ったりお魚を切るときのまな板代わりにしたり使い倒してください(笑)
※この記事は、2025年10月に開いたトークショーを基に構成しました
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