
若手社会人にとって、職場での人間関係は必ずぶつかる壁の一つです。新聞科学研究所が20代、30代の男女計100人にアンケートしたところ、20代の2人に1人、30代は3人に1人が上司とのコミュニケーションに悩んでいることが分かりました。組織やチームの成長に必要な心理的安全性を研究する石井遼介さん(ZENTech代表)に、上司や同僚とのコミュニケーションをより良くするための具体的なヒントを聞きました。何気ない雑談のネタ集めが円滑なコミュニケーションのポイントとなるそうです。
目次
社会人に聞いた「職場の人間関係、何で悩んでいる?」
職場の人間関係の悩みを具体的に尋ねると、「意見が合わない/価値観が違う」と答えた人が51%と最も多く、人間関係の悩みの中心には世代間のギャップがあることが分かります。次いで「指示や説明が分かりにくい」「話しかけにくい」が29%で並び、日常的な意思疎通の難しさも上位に上りました。

良好な人間関係は感謝の言葉とあいさつから
アンケートでは、人間関係づくりのために実践していることも聞きました。約半数の人が「感謝を言葉にして伝える」(51%)、「あいさつを欠かさない」(49%)といった基本的なコミュニケーションを重視しているようです。さらに「意見をしっかり伝える」(32%)や「適度な距離を保つ」(31%)といった配慮も見られました。日々の小さな積み重ねが関係性を築く土台となっているようです。

職場の人間関係がうまくいかない時に意識したい四つのこと
ここからは、職場の人間関係を良好に保つためのアドバイスを石井遼介さん(ZENTech代表)に伺います。
①苦手な相手に対するスタンスを決めると楽になる
ーー職場の人間関係に悩む人が多くいます。職場では苦手な人とも付き合わなければいけない場合も多いですが、どう向き合えばよいですか。
特定の同僚や上司が苦手だと感じた時は、①苦手なままにしておくか、②仲良くなる努力をするか、どちらにするかを自分の中で決めるだけでも、気持ちが少し楽になります。苦手なままにしておく、という選択肢があってもいいんです。「この先輩は苦手なままでいい」と決めたうえで、大人として必要なコミュニケーションはきちんと取り、仕事はきちんと進める。そのスタンスがあるだけで「どう接すればいいんだろう」と悩み続けるよりも、ずっと気持ちが落ち着きます。
一方で、親しくなって仕事術を学びたい!と感じるのであれば、まずはシンプルに話しかけてみることが大切です。相手が忙しくないタイミングを見計らうことは重要ですが、「もっと仕事を学びたい」「教えてください」というスタンスで会話や質問に来てくれる新人を嫌う先輩はほとんどいないものです。
ーー嫌いという感情を一度抱いてしまうと、どんどんネガティブに考えてしまいがちです。それを防ぐための心構えはありますか。
嫌いという感情を抱いた時、人はつい「相手が100パーセント悪い」と決めつけたくなってしまいます。でも実際には、人間関係の多くはその中間にあって、白でも黒でもないグレーゾーンがほとんどです。だからこそ「あ、いま自分、白黒で見てるな」と気づくだけで、視野がふっと広がりします。「敵か味方か」と白黒をあまりにはっきりさせようとしすぎず、「苦手だけど最低限の関係は保つ」「できる範囲で距離を縮める」といった柔軟な姿勢も、職場では十分に有効だと思います。
また、仮に「この人は敵だ」「嫌い」とまで思ってしまったとしても、それは心の中にとどめておいてください。たとえ相手に本当に問題があったとしても、相手の批判や悪口は自分の首を絞めることになります。周りから「この人は、他人を悪く言う人なんだ」「この人には余計なことを言わない方がいいかも」と思われてしまうからです。結果的に、自分自身の信頼を下げてしまうことにもつながりかねません。自分のためにも、感情を口に出してしまう前に一度立ち止まることが大切です。
②相手が「何を大事にしているのか」を知る
ーーほかに意識するとよい点を教えてください。
職場の人間関係は、学校や趣味の人間関係と大きく異なる点があります。それは、職場ではあくまで組織やチームとして、お客さまや社内の誰かの役に立つという共通の目的があるということです。この共通の目的は、社会やお客さまへの「貢献」や「価値創造」と言ってもいいでしょう。
ですから、職場ではただ楽しく会話できるというだけでなく、チームで成果を出すために、言いにくいことでもお互いにしっかり伝え合える関係、まさに心理的安全性のある関係こそが、職場での良好な人間関係だと言えます。そのための一歩目は「この組織やチームはどのような貢献を目指し、何を大切にしているのか?」という共通の認識を持つことです。共通認識があれば、その大切なことに向けた意見も言いやすくなります。
分かりやすい例では、工場や機械設備を扱う現場であれば「安全が最優先」という共通認識があります。その共通認識を踏まえたうえで「私たちが大事にしている安全の観点で、気になったことがあるのですが・・・」と切り出すと、大切なことに向けて意見が言いやすくなります。
若手の方であれば「上司は何を大事にして仕事をしているんだろう」と関心を持ち、話を聞いてみるところから始めるといいと思います。「部長が営業の現場に出ていた時は、お客さまに満足してもらうために、どんな視点で提案を考えていたんですか?」と問いかけてみることで、上司や組織の価値観や大切にしていることが見えてきて、自然と対話も深まります。相手の価値観や組織としての大切にしていることを理解し合えると、意見も言いやすくなり、人間関係の土台がしっかりしてきます。
③失敗を通じて学ぶことが仕事だと考える
若手社員にとって失敗はつきものです。失敗が怖い時は「今の自分の仕事は、失敗を通じて学ぶためのものなんだ」と考えてみると、少し気持ちが楽になります。実際、新人に失敗すると会社が傾くような重大なプロジェクトを丸ごと任せることはまずありません。多くの仕事はうまく転べるような形で用意されていることが多いんです。うまくいかない時は積極的に上司に相談していきましょう。
自転車の練習と同じで、転びながらコツをつかんでいくようなものです。「こんなふうに転びました」「転んだので助けてください」と共有する方が、何もない状態で上司に話しかけようとしたり相談しようとしたりするよりも、ずっと自然でやりやすいと思います。失敗を大ごとに考えすぎず、「失敗しても大丈夫」「失敗から学んで成長しよう」という気持ちで取り組むことが、職場の人間関係を築くうえでも大切になってきます。
④雑談で相互理解を深める、トラブル報告もスムーズに
ーー上司や同僚との距離を詰めるために効果的な方法を教えてください。
コミュニケーションの土台として大切なのは、何気ない日常のあいさつや雑談です。特に職場では、トラブルが起きた時の的確な報告も大切なコミュニケーションです。ポジティブな内容に限らず、「これは少し問題があるかも」というネガティブな情報も含めて、きちんと共有できる関係を作るには、普段からの雑談が大きな役割を果たすんですね。
また、雑談を通してお互いの強みや興味・関心が見えてくると、「この人にはこれを相談してみよう」「この仕事はあの人にお願いしてみよう」といった判断がしやすくなります。ちょっとした会話の積み重ねが、信頼関係やチーム内の連携に自然につながります。
ーー雑談のきっかけづくりとして、どんなテーマが話しやすいでしょうか。
たとえば「仕事でこんなことに困っていて」と切り出し、「こういうとき、先輩ならどうされますか?」と尋ねるのは、会話のきっかけとして良い方法です。先輩から実体験に基づいたアドバイスやエピソードがもらえるうえ、距離もぐっと縮まります。
さらにおすすめなのが、自分の業界や仕事に関連するニュースです。仕事の話では先輩の方が詳しいことが多いですが、新しく起きた出来事であれば立場に関係なく話題にしやすく、自然に話を広げることができます。
ーーリモートやオンライン中心の職場で人間関係を良好に保つための工夫には、どんなものがあるでしょうか。
リモートやオンライン中心の職場では「返信」よりも「反応」が大切です。完璧な返信を考えて時間が空いてしまうより、まずは「受け取りました」という意味の一言を即座に返すだけで、相手はきちんと届いたことが分かり、安心できます。メッセージを送った側にとって、相手に伝わったかどうかが分からない時間は意外と不安なものですよね。
たとえば先輩から依頼を受けた際、まずは「ご連絡ありがとうございます。後ほどしっかり確認します」と一次返信。その後、必要な作業を一通り終えたうえで「自分なりにやってみましたが、少し確認したい点があるので、相談の時間をいただけますか?」と続ければ、それだけで十分に丁寧な印象になります。リモート環境では、こうした小さな気配りの積み重ねが、信頼関係を築く土台になるのではないでしょうか。

【独自アンケート】雑談でよく使うネタはスポーツ、エンタメ、地域の話題
石井さんから、雑談の題材にニュースがおすすめという話がありました。新聞科学研究所のアンケートでは、職場でよく話題にしているニュースについても聞きました。「スポーツ」と「エンタメ」がともに35%で最も多く、次いで「地域の話題」(28%)、「社会問題」(24%)、「経済」(20%)と続きます。身近で親しみやすいテーマが会話のきっかけになりやすく、関係構築の入り口になっているようです。

さらに、ニュースの情報源には「SNS」(56%)、「無料のニュースサービス・アプリ」(55%)、「テレビ」(51%)がよく使われているようです。
一方で「新聞」は19%にとどまっており、情報収集の手段としては少数派です。しかし、石井さんは、新聞には話題づくりのヒントが多く含まれており、職場での活用には大きな可能性があると話します。ここからは、石井さんに新聞が職場の話題づくりやコミュニケーションにどう役立つのか聞いていきます。
職場での「ちょっと深い会話」のトピックは新聞で探すのがおすすめ

ーー職場でのコミュニケーションのきっかけとして、新聞がどのように役立つと思われますか。
同僚との雑談やコミュニケーションは、職場の心理的安全性づくりの一歩目です。職場の心理的安全性を高めるには、お互いの考え方や価値観が理解されていて、安心して意見を交わせる状態が必要です。そうした関係を築くには、ただ表面的な会話をするのではなく、少し踏み込んだやりとりができるかどうかがポイントになってきます。
そこでおすすめなのが、新聞などのニュースをきっかけにした会話です。たとえば同じ記事を読んでも「この人はこんな視点で見るんだ」と気づくことがあり、相手の考え方や価値観が少しずつ見えてきます。そうしたやりとりを重ねることで、人となりが分かり、「困った時にはこの人に相談してみよう」といった判断もしやすくなっていくでしょう。
その意味では、相手にただ教えてもらうだけではなく、一歩踏み込んで「自分はこう考えてみましたが、◯◯さんはどう思いますか?」などと、自分なりの視点を提示してみることも大切です。
新聞は会話の自然な入り口になりやすい点が大きいと思います。新聞記事には旬の話題が多く、異なる世代・立場の人とも共通して話せる話題を見つけやすいのでおすすめです。
たとえば昼休みに「最近こんなニュースを見たんですけど、どう思いますか?」と軽く話を振るだけでも、自然な会話が生まれやすくなります。最近は日本の政治がよく動いているので、私もよく、新聞に載っている政治や経済などの記事を話題にします。
話題作りに役立つのは経済面、文化面
ーー新聞ってかなりページ数が多いですよね。話題作りという観点で「まずはここをチェックすべき」という部分があれば教えてください。
まずは経済ニュースが載ったページに目を通してみてはいかがでしょうか。自身の業界に関連するニュースは、会話の自然なきっかけになります。たとえば「この企業の買収について、どう見ていらっしゃいますか?」と聞いてみると、先輩の経験や視点を引き出せるうえ、自分自身の理解も深まっていきます。
また、文化面の書評や映画評なども会話の入り口としておすすめです。ビジネスリーダーには幅広い教養が求められます。ある大手メーカーの社長は、新聞で紹介されている書籍や映画を、たとえ関心が無かったとしても毎週一つ選び、読んだり観たりすることを何十年も続けてきたそうです。自分の関心分野や生成AI(人工知能)による推薦を超えて、視野を広げてくれる土台として新聞に触れることで、教養の幅も自然と広がっていくと思います。
毎日1本、気になる記事を見つける|読んで「私はこう思った」を伝えよう
朝礼などチーム内で話す場があれば、同じ記事を読んで「自分はこう感じた」と共有するのも効果的です。同じニュースでも、人によって捉え方はさまざま。そうした違いに触れることで、お互いの考え方や視点が見えてきて、相互理解にもつながっていきます。
さらに、職場でのコミュニケーションを円滑にするには「相手に分かりやすく説明する力」が欠かせません。特に若手の場合、自分と異なる世代や取引先など立場が違う相手に対して、論理的に伝える力がまだ育ちきっていないこともあります。そこで役立つのが新聞です。
新聞の記事は誰が読んでも分かるように工夫されており、「どうすれば誤解なく、端的に伝えられるか」というテクニックも学べます。たとえば記事の冒頭に何が書かれているか、どんな順番で情報が整理されているかなどを意識して読むことで、上司への報告にも応用できるようになります。
ーー新聞を習慣づけるコツを教えてください。
「完璧に読もうとしないこと」が継続のコツですね。大事なのは、1日一つでも「これ気になるな」と思える話題が見つかれば十分だという感覚を持つこと。まずは1面(最初のページ)を全体的にざっくり眺めて、気になる見出しがあれば少しだけ読んでみるといった読み方で十分です。
続けるためには「どこに置くか」も意外とポイントになります。たとえば新聞を広げた状態でテーブルに置いておくだけで、朝食のついでや着替えのタイミングで自然と目に入ってきますよね。「あ、これ面白そう」と思った瞬間にちょっと読むだけでも、習慣づくりの第一歩になります。部屋の隅に積んでおくより、ふと目に入る場所に置いておくのも有効かもしれません。

職場の人間関係を良好に保ち仕事を円滑に進めよう
職場の人間関係を改善するには、決して特別なテクニックや言い方・フレーズだけが大切なわけではありません。基本的なコミュニケーションの積み重ねが、上司や同僚との関係を少しずつ前向きに変えていきます。自分から話しかけてみる、早めに相談するといった小さな行動が、相互理解を深め、良好な人間関係を生む土台になります。
話題のきっかけとして新聞を活用するのも効果的です。気になった記事を「このニュース、どう思いますか?」と話題にすることで、相手の価値観や考え方を知る手がかりになります。共通の話題があると、会話が自然に広がっていくでしょう。
社会人になりたての頃は、人間関係に悩みがちです。しかし、助けを求めることや失敗から学ぼうとする姿勢こそが、信頼を築く大きな一歩になります。焦らず、自分のペースで歩んでいきましょう。
株式会社ZENTech 代表取締役
石井 遼介(いしい・りょうすけ)さん
一般社団法人日本認知科学研究所理事。武蔵野大学しあわせ研究所客員研究員。東京大学工学部卒、シンガポール国立大学でMBA(経営学修士)取得。心理的安全性の計測尺度や組織診断サーベイを開発し、組織やチームの成果向上に取り組む。研究と実務をつなぐ立場として、ビジネスやスポーツ領域でチームづくりを支援。日本オリンピック委員会の医・科学スタッフを務めた。著書に「心理的安全性のつくりかた」(日本能率協会マネジメントセンター)など。
<調査概要>
【調査手法】インターネットアンケート
【調査対象】20代・30代で職場の人間関係に悩みを持つ人
【調査期間】2025年11月14~21日
【回答者数】100人



