「いつかは起業や独立をしてみたい」「フリーランスで活動してみたい」……
そんな思いを胸に、日々の仕事と子育てに奮闘しているママに向けたトークイベント「起業・開業・独立を考えるママのための不安解消法~働く女性の情報収集術~」を開きました。
会場は東京都の創業支援施設「Startup Hub Tokyo(スタハ)」。80人の女性が参加し、ちいさなお子さん連れの方もいらっしゃいました。
目次
◆働きながらの子育て|先輩ママはどうしてた?
働きながら子育てしていると、不安や悩みが次から次へと湧き起こります。
「子どもを抱えてからの独立・起業は勇気がいるけれど、どうやって一歩踏み出したの?」
「ライフプランとキャリアプランをどう両立している?」「タイムマネジメントのコツは?」などなど、キャリアと子育てのはざまで悩む女性たちが気になる話題について、ゲストのみなさまにたっぷり語っていただきました。
スペシャルゲストはメディアでも大活躍のスタイリストの大草直子さん。新媒体「AMARC」も主宰しておられます。
(とにかくオーラがすごい!知的で明るくてパワフルで、太陽みたいな方です!30代女子のロールモデル、憧れの方ですよねー。)
トークゲストには、働く女性から大きな支持を集めているOURHOME主宰、整理収納アドバイザーのEmiさん。
(「本物のEmiさんだー」と会場でつぶやかれていた方も。整理収納だけでなくライフスタイル全般を参考にしている女性もたくさんいらっしゃいます)
一度独立し組織に戻ったご経験のあるサンケイスポーツの竹下聖さん。
(実は竹下さん「働くママ応援ガイド」を作ってくださった制作プロダクションでお仕事されていたこともあるんです。柔軟な働き方のコツは運営スタッフも興味津々です)
みなさん、会社員を経てフリーランスになった経験のあるワーキングマザーでいらっしゃいます。
司会進行は日本経済新聞社の弟子丸幸子さんにご担当いただきました。
ファッション、ライフスタイル、報道の世界でそれぞれご活躍のみなさんに、まずはこれまでの道のり、ご家族の話題からお話いただきました。
大草直子さん「人生とキャリアは100点を目指さない」
大草さん:子どもが3人います。一番上は大学1年生の女の子、思春期真っただ中の中学2年生の男の子、一番下は小学校3年生の女の子です。一番上は前夫との子どもなので、わが家は本当にダイバーシティ、パッチワークな家族です。今の肩書はスタイリストですがキャリアのスタートはハースト婦人画報社の編集者でした。休刊になってしまったのですが「Vingtaine(ヴァンテーヌ)」という雑誌に学生の頃から憧れて、同誌の編集者になりたい!と就職試験を受けました。実は最終試験で落ちたのですが、新雑誌の創刊が重なり、追加採用され編集者になりました。その後、4年半でフリーランスになり、今に至ります。
キャリアと人生の課題は「100点を目指さない」ことです。100点を目指すと、すごく自分を追い詰めてしまいます。結果120点ならそれでいいですが、最初は子育ても含めてあまり自分に大きな課題は課さなかったことが、自分にとって良かったと思っています。
Emiさん「ちょうどいい暮らし」を発信したい
Emiさん:10歳になる男女の双子がいます。今は整理収納アドバイザーという肩書きで活動していますが、もともとは通販会社の千趣会に勤めていました。できるなら定年まで働きたいと出産後当たり前のように仕事復帰しましたが、思うようにいかないことの連続で、自分の中でバランスが取れなくなり、8年前に働き方を変えるという選択をしました。5年前に夫と法人化し、今は14人のスタッフと働いています。“家族みんなのちょうどいい暮らし”を発信したくて、現在は暮らしにまつわる情報の発信や、前職の商品企画の経験を生かしてオリジナル商品の開発やオンラインショップの運営などもしています。
竹下聖さん「娘と向き合いたい」とフリーランスを経験
竹下さん:中学校1年生の娘がいます。娘が5歳のときに働いていた産経新聞社を一度退社し、4年間フリーランスを経験。娘が小学4年生になったときに会社に復帰しました。少し変わったキャリアかもしれませんね。大学卒業後にスポーツ新聞の記者になり、プロ野球やサッカーの取材をしていました。文字通り日本中、世界中を飛び回る生活をしていました。31歳の時に結婚。娘が5歳になったとき、もっと娘と向き合いたいなと考え、フリーの記者になりました。新聞協会で発行している「働くママ応援ガイド」の制作プロダクション「まちとこ」という編集チームに参画し、旅の記事などを書いたり、テレビ局のドキュメント番組の下調べなどをするリサーチャーの仕事をしたりしていました。会社に復職した今はフルタイムで働いています。
弟子丸幸子さん「人生はワークライフチョイス」
弟子丸さん:働き方改革の波に乗り40歳で出産、4歳の男の子がいます。普段は企業報道部でデスクをしています。出産を経て、私自身の問題意識が大きく変わり、働き方を取材するチームを立ち上げました。たくさんの起業家や経営者からお話を伺い、いろいろな気づきを得ました。その中で思ったのは「女性の人生には非常にいろいろな場面があり、その中でどう生きるかの選択を常に迫られている」ということでした。一番印象に残ったのは日本マイクロソフトの前社長・平野拓也さんの、人生というのは「ワークライフバランスではなくワークライフチョイスだ」という言葉です。今日のゲストはまさに「チョイス」をそれぞれされたお三方ですね。
私の母親も起業家でした。勤め先を出産前に退職し、出産後どうしても復帰したかったのですが、子育て中の女性でも働けるところが見つからず起業しました。グローバルな人材を育成するのが夢だったそうで、英会話学校を立ち上げたのですが、70歳を超えた今も現役で楽しそうに仕事をしています。女性の起業は本当に道を開くのだなと、身近な存在を見て感じ取ってきました。
◆子育てしながらの独立 きっかけや決め手は
弟子丸さん:みなさん、お子さんが生まれてから起業・独立をされています。子どもを持ってからの独立は不安があったと思いますが、どう乗り越えましたか?フリーランスになったきっかけ、決め手はどんなことだったのでしょうか?
「5年をキャリアの区切りにする」(大草直子さん)
大草さん:私は出版社を27歳で退社しました。フリーになって今年で20周年です。
27歳は編集者として5年目で、次の5年をイメージした時、今と同じ仕事はやっていないかなと思いました。どうしても自分の中でイメージがわかなかった。会社に残るか、当時夢中になっていたサルサダンスをとるかの二つの選択肢がありました。当然、普通なら会社に残る方を選ぶと思うのですが、5年後をイメージした時に踊りは続けているだろうけど、この編集部・会社・働き方でやっている姿は思い浮かばなかったんですね。イメージできる方を選択しました。ダンスの本場が見たかったんです。
いつも自分の中で5年をキャリアの区切りにしています。ご自分の年表を作るのをお勧めします。自分のターニングポイントが何年ごとに来るのか「見える化」できるんです。
迷っているうちは本気じゃない(Emiさん)
Emiさん:独立したのは29歳で、27歳の時に男女の双子を出産していました。1歳半まで育児休暇を取り、当たり前のように職場復帰をして、同じ会社で頑張っていきたいと思っていましたが、双子は低体重で生まれたことから体調不良な時も多く、保育所からの呼び出しも多々ありました。誰からも責められてはいないのに、スケジュール管理や仕事ができない自分を責め続け1年間過ごしました。子育ても仕事も中途半端な気がして負のスパイラルに陥っていたのです。
そんな最中に、夫からドイツ転勤を告げられました。一緒に喜ぶこともできず、そんな自分自身にショックを受けました。自分と向き合おうと、一週間ほど自己分析に取り組みました。ノートに書いたり、考えを深めたりしていく中で、「働き方を変える」ことが自分の人生に必要なのではないかと、初めて自覚したんです。
いつも応援してくれる義理の母に「働き方を変えようと思う」と相談しました。同じように応援してくれると期待していたのに「うーん」という反応。「どうして応援してくれないの」とがっかりしたのですが、理由がわかりました。言葉が本気じゃなかったんです。迷いながら相談していました。考え抜いて3か月後に「これだ!」と思う道が見えて、もう一度相談したときには「絶対にEmiちゃんなら大丈夫」と言ってもらえました。迷っているうちは本気じゃないんです。本気の時は何も考えずに体が動くんだと、仕事人生16年フリーランス8年の中で気づきました。
弟子丸さん:目指す働き方はできるようになりましたか?
「ちょうどいい働き方」を自ら見せる(Emiさん)
Emiさん:はじめは子育てをしながら自宅で働いていけたらいいなと思っていました。でも、前の会社の同僚に呼んでもらった忘年会に参加した際、孤独を感じ、その時「私は自分で組織を作ったほうがいいのかもしれない」と思ったんです。一人が寂しい、誰かと忘年会したいと思ってしまって(笑)。おかげさまで今は14人のスタッフに恵まれ、皆16時には終業します。私は17時まで。始業は9時半で、私は8時過ぎくらいから仕事を始めますが、17時にはあがって18時にはビールを飲んでいるという感じです(笑)。「ちょうどいい働き方」を実践するため、スタッフの前で自分だけ夜遅くまで仕事をしてはバランスが取れませんから、早く帰ることを目標にしていますね。
弟子丸さん:竹下さんはお子さんが5歳の時に一度独立されていますよね。
「思い切り自然と触れ合う時間を」娘と親子留学(竹下聖さん)
竹下さん:大きなきっかけは、東日本大震災でした。娘は4歳で、保育園に預かってもらっているときに地震が起き、自分の大切なものは何か、と見つめ直すきっかけになりました。娘が大きくなると保育園からの呼び出しも減り、仕事と育児のバランスが取れてこのまま走っていってもいいのかなと思っていた時期でしたが、もう少し娘と向き合うことも大切にしたいと感じたんです。また、結婚を機に営業職に移ったので「書く」仕事をまたやりたいとも思いました。少し突飛ですが、人生の中で思い切り自然と触れ合う時間を子どもに与え、のんびりした子育てする時間を持ちたかったのです。ハワイに親子留学し、ライターをやりながら、娘が2年生になるまで海外生活を続けました。
弟子丸さん:再び組織に戻る決断をされましたが、フリーランスのメリットとデメリットをどのように感じていますか?
フリーランスは時間の融通が魅力、でも自分には組織が向いていた
竹下さん:メリットは、自分で車のアクセルをどのくらい強く踏めばいいかを自分で調節できる点です。子どもと向き合いたいときは仕事をセーブしながら過ごして、学校のボランティアや習い事にも同行できる、そんな暮らしができました。
フリーになって気がついたのですが、同じ「書く」仕事でも、自宅を仕事場としていると孤独を感じることがある。今はパソコンがあれば人と会わなくても仕事ができてしまいますね。ですが、自分は同僚と机を並べて切磋琢磨して皆でワイワイ意見を言い合うような職場で仕事をする、そんな環境が性に合っていることがわかったんです。それで組織に戻る決断をしました。私の場合は家で仕事をしていると、逆に仕事と育児のバランスが取れなくなってしまいました。子どもを送り出したらずっとワイドショーを見てしまって、原稿も書かずにお昼になり、家族が寝静まった夜に書こう…となってしまうような日ももあり、「こんなんじゃないのに…」とストレスになってしまいました。時間の融通はきくけれどもメリハリがつかず、苦しくなってしまったんですね。会社に復職したときは、娘も小4になっていたので留守番や一人で習い事に行けるようになるなど、娘自身ができることが増えたのもきっかけのひとつです。
弟子丸さん:お子さんの成長にも歩幅を合わせるなど、働き方を柔軟に変えるという選択肢はとても参考になります。
自分が楽しいと感じる道へ
竹下さん:いきなりフリーになったからといって今までの経験が全部リセットされるわけではないことを学びましたね。会社員時代の仕事を見ていてくれた人から新しい仕事をいただくこともありました。今やっていることを大事にして、その姿を見ていてくれる人と、その先フリーになったり起業したり組織に戻ったりしてもつながっていけると思います。人生で迷ったときは、自分の心に聞いてみて、楽なことより自分の心が「楽しい」と感じることをやると、大変なこともあると思うのですが、道が開けるのかなと思います。参考にしていただければうれしいです。
(後編に続く)
2020年2月17日公開