「社会で活躍するためにはビジネススキルが必要」と耳にすることも多いはず。実際、職場で活躍するだけでなく、変化の激しい時代の中でキャリアを切り開くためにもビジネススキルは必要不可欠です。
とはいえ、「具体的にどのようなスキルが求められるのだろう」「必要なスキルを効果的に身につけるためには具体的に何をすればよいのだろう」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
「最高の成果を生み出す ビジネススキル・プリンシプル」(フォレスト出版、2019年)の著者である中尾隆一郎さんは「ビジネススキルは学べば誰でも習得できる」と言います。その習得方法やポイント、身につけておきたい習慣について中尾さんに詳しく聞きました。
記事の中では、社会人約300人に聞いた「ビジネススキル向上のために意識したこと」をランキング形式で紹介しています。社会人のリアルな声も併せて、これからビジネススキルを伸ばす上でのヒントにしてください。
株式会社中尾マネジメント研究所(NMI)代表取締役社長 中尾 隆一郎(なかお・りゅういちろう)さん
目次
「ビジネススキル」は社会人としての基盤
社会で活躍するために必要な「ビジネススキル」
―― 社会で活躍する上でビジネススキルは必須とされます。その背景を教えてください。
仕事で成果を上げるためには、それを支える知識や技術が必要です。現代はテクノロジーの進化やグローバル化の急速な進展に伴い、私たちを取り巻くビジネス環境が刻一刻と変化する時代です。時代の変化に柔軟に適応しながらキャリアを切り開くためには、スキルをアップデートし続けなければなりません。
生成AIの登場によって、仕事の進め方や働き方は大きく変わろうとしています。AIに代替される業務がある一方、技術の進歩によって新たに生み出される業務もあるでしょう。テクノロジーを生かした業務の効率化はもちろん、新しいニーズを見つけて仕事を生み出すためにも、スキルアップが必要です。
また、企業も個人も国境を越えて活動する時代になり、国際的な競争力を身につける必要性が高まっています。そのような中、日本では就職後に自己研さんに励む人はあまり多くありません。一方、海外では大学を卒業した後も専門性やスキルを磨き続ける傾向があります。グローバル社会の中、これから肩を並べて働く海外人材は、新しい知識や技術の習得に貪欲であることを認識しておいた方がよいでしょう。
ピープル・エンパワーメント(PE)とプロジェクトマネジメント(PM)
―― では、「ビジネススキル」とは具体的にどのようなスキルを指すのでしょうか。
「ビジネススキル」は仕事で成果を上げるために必要なスキルの総称です。個人に加えてチームで成果を出すためにメンバー間の関係の質を高めるスキル「ピープル・エンパワーメント(PE)」と、仕事を効率的に進めるスキル「プロジェクトマネジメント(ME)」の2つに分けられます。
どちらのスキルも大切ですが、ピープル・エンパワーメントをより大切に考えた方がよいでしょう。なぜなら、大きな仕事は1人で進められるものではなく、チームで一緒に進め、成果を出すものだからです。
なお、2つのスキルを難しく考える必要はありません。学生生活でもこれらのスキルを無意識のうちに活用して、物事をうまく進めた経験がきっとあるはずです。例を挙げながら説明していきますね。
ピープル・エンパワーメント(PE)とは
良い関係を良い結果につなげるスキル
「ピープル・エンパワーメント(PE)」はメンバーと良い関係を築くことで、仕事に対するモチベーションを高め、結果を出すために必要な行動を活性化させるスキルです。学生時代の活動でいうと、部活やサークル活動でチーム一丸となって結果を残した経験で培われ、生かされています。
ダニエル・キム「組織の成功循環モデル」
このスキルを理解するには、米マサチューセッツ工科大学組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功循環モデル」が参考になります。「組織の成功循環モデル」では、メンバー間の「関係の質」や組織の心理的安全性を高めることで「思考の質」「行動の質」が高まり、業績の向上はもちろん、メンバーの成長や社会への貢献度アップなどの「結果の質」も変わるとされています。
人材開発・組織変革を支援している株式会社ヒューマンバリューによると、「関係の質」「思考の質」「行動の質」はそれぞれ「プロパティ」と呼ばれる項目で成り立ち、5つのレベルに分けられます。「関係の質」はメンバー同士の会話量や協力の度合いなど、関係性や関わり方に関するものです。「思考の質」は何事も自分事として考える姿勢やポジティブ思考など、物事の考え方や捉え方のことです。「行動の質」は迅速かつ柔軟に変化に対応する(アジャイル思考)、自ら積極的に実践するなど、行動の傾向や習慣を指します。
「関係の質」「思考の質」「行動の質」は影響し合う
3つの質は互いに影響し合っています。例えば、「関係の質」のレベル1、2は「思考の質」のレベル1と影響し合っています。横方向のつながりも知ることで、例えば「思考の質」のレベル2にある「ポジティブ思考」を生むには、「関係の質」のレベル3にある「ありがとう」の声掛けが自然と出るような関係性を築く必要がある、といった仮説が立てやすくなります。
このモデルを理解しておけば、組織やチームの現状が見える化され、次に取るべき行動がわかりますよね。
つまり、ピープル・エンパワーメントとは「成功循環モデル」を基として、それぞれの質を高めるためにメンバーをうまく巻き込み、どのような取り組みができるかを考えるスキルだと言えます。
プロジェクトマネジメント(PM)とは
仕事を前に進めるためのスキル
プロジェクトマネジメントは、仕事を上手に進めるためのスキルです。学生時代であれば、友人と計画した旅行は、プロジェクトマネジメントのスキルを生かした経験の1つと言えるでしょう。
プロジェクトマネジメントにあたっては、プロジェクトの目標や全体像を明確にし、必要なタスクを洗い出すところから始めます。その上で、スケジュールや進み具合を確認しながら各タスクを実行し、必要に応じて軌道修正しながら、プロジェクトを成功へと導きます。その過程では、プロジェクトに関するさまざまな知識やスキルが求められます。
例えば、複数のメンバーがプロジェクトに関わる場合、関わるメンバー全員の特性やスキルを把握した上で仕事を割り振らないと、求められる品質と納期でお客様に届けられませんよね。各メンバーが無理のないスケジュールで進められるよう、計画を立て、仕事を適切に割り振るスキルが必要です。限られた予算の中で、費用を上手にコントロールしながらプロジェクトを進める力もプロジェクトマネジメントの一部です。
たとえピープル・エンパワーメントのスキルで組織の心理的安全性を高めたとしても、実行に移した行動が間違っていたら、良い結果は出せません。ビジネススキルを磨くには、ピープル・エンパワーメントとプロジェクトマネジメントの両方を身につけることを意識する必要があります。
ビジネススキルを早期に身につけることのメリット
スキルアップに取り組む人は収入も仕事の満足度も高い
―― ビジネススキルを早くから身につけるメリットはありますか。
仕事で成果を出せるようになると、収入やポジションだけでなく、チームへの貢献度や仕事への満足度も上がります。以前リクルートが実施した調査では「過去1か月間に仕事に関する学びに自主的に取り組んだ」と回答した人の割合は17%でした。その17%の人は、残りの83%と比べて、収入も仕事への満足度も高くなっていました。
マルコム・グラッドウェル「1万時間の法則」|専門性を高め、価値の高い人材に
また、早くから専門性を高めることで、人材としての価値を高められます。米国在住のジャーナリスト、マルコム・グラッドウェル氏が提唱した「1万時間の法則」では、ある分野のプロになるためには1万時間を費やす必要があるとされています。仮に毎日2時間取り組めば、約15年かかります。20代から働き始めて60歳まで働くとして、その間にスキルを磨き続ければ、2つの専門性を身につけることは十分可能ですよね。専門家を名乗れる程度に極めた分野が2つあれば、希少価値が高い人材になれます。
スキルはあくまで技術であり、たとえ経験がなくても、学べば誰でも習得できます。例えば、マネジメントもスキルの1つです。私がかつて勤務した会社で、マネジメント業務を始めて任された人がいました。その人は、実地の経験はなかったものの、それまで学んでいたマネジメントスキルを実践することで立派に管理職の役割を果たしたのです。
ビジネススキルを身につける上で必要な4つの要素
―― ビジネススキルを身につける上で、意識すべきポイントはありますか。
ビジネススキルを身につけるにあたって、「常にゴールを意識する逆算思考」「即時のフィードバックと反復」「少しずつゴールの難易度を上げること」「関係の質が高い環境」の4つを重視するとよいでしょう。
①常にゴールを意識する逆算思考
「G-POP®マネジメント」で準備、行動、振り返りのサイクルを回す
まずは、常にゴールを意識して行動することが大切です。
ビジネスで結果を出し続ける人は、常にゴールを意識した逆算思考で行動します。事前準備に時間をかけた上で行動し、しっかりと振り返りまで行うサイクルを回しながら、成功・失敗のポイントをつかんでいきます。私はこのサイクルをGoal(ゴール、目的)、Pre(事前準備)、On(実行・修正)、Post(振り返り)の頭文字を取って「G-POP®マネジメント」と名付けました。
例えば、同じ会議に出るとしても、目的もわからずに参加するだけの人と比べて、目的を意識して必要な準備をしてから参加する人の方がはるかに成長します。会議の方向性や目的に沿った発言や提案ができるように必要な知識をインプットしたり、想定される他の参加者の出方からシナリオを作ったりすることで、スキルが磨かれていくからです。
「G-POP®マネジメント」とPDCAサイクルの違い
これとよく似たサイクルに、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取った「PDCA」がありますよね。ただPDCAサイクルの場合、ゴールを意識する視点が抜けてしまいがちで、いつの間にか行動すること自体が目的に変わってしまうことがあります。そこでG-POPでは、Pre・On・Postの3つの上にGoalを置くことで、常にゴールを意識しながら行動することを大切にしています。
②即時のフィードバックと反復
念入りに事前準備をして行動した後は、すぐにフィードバックをしましょう。フィードバックで改善点を洗い出し、次に生かしながら行動を重ねることで、スキルアップができるからです。
なお、「フィードバック」と聞くと、「誰かから伝えてもらうもの」というイメージがあるかもしれませんが、1人でもできます。例えば、営業担当者が自分なりに立てた仮説を基にシナリオを作って商談に臨んだ場合、「お客様の反応はどうだったか」「想定外の質問はなかったか」などについて商談後に自分自身で振り返ることができますよね。
このような内省もフィードバックに当たるため、行動後に自らすぐに振り返る習慣を身につけておくとよいでしょう。結果の良し悪しを問わず振り返る習慣を身につけた上で、何度も行動を重ねることがスキルの習熟につながります。
③少しずつゴールの難易度を上げる
「G-POPマネジメント」のサイクルを繰り返すうちに、自分が持っているスキルで自信を持って対応できるようになったら、ゴールの難易度を少しずつ上げる必要があります。
ノエル・M・ティシー「ラーニングゾーン」| 適度なチャレンジを要する環境が成長のカギ
米ミシガン大学のノエル・M・ティシー教授は、個人が成長する仕組みを「コンフォートゾーン」「ラーニングゾーン」「パニックゾーン」の3つのゾーンに分けて捉えました。スキルを伸ばすには、新たな学びや成長が必要な「ラーニングゾーン」に身を置くことが最適とされています。現在のスキルで問題なく対応できる状態は「コンフォートゾーン」と呼ばれ、成長は見込めません。とはいえ、いきなり高い目標を立てるなどの無理をすると「パニックゾーン」に入ってしまい、過剰なストレスや負荷がかかってしまいます。
ビジネススキルを身につける際には、いきなり難しいことにチャレンジするのではなく、常に自分の実力より少し上のゴールを目指す形で、段階的にスキルアップしていくことが重要です。
④「関係の質」が高い環境が大切
心理的安全性が高く、メンバー全員で同じ目標に向かって成長を続けられる環境も大切です。「組織の成功循環モデル」で言うと、「関係の質」が高い状態ですね。
チームや組織が一丸となって成長しようとする環境であれば、周囲から刺激を受けて、自然とメンバーそれぞれがスキルアップに向けて努力するでしょう。一方、いくら個人が「G-POPマネジメント」のサイクルを回すことや「ラーニングゾーン」に身を置くことを意識してスキルアップに取り組もうとしても、それを周囲や組織が好意的に受け止めず、一緒に頑張ろうとしなければ、モチベーションは下がってしまいます。
ビジネススキルを身につけるために、「常にゴールを意識する逆算思考」「即時のフィードバックと反復」「少しずつゴールの難易度を上げること」の3つのポイントを実践することはもちろんですが、心理的安全性や成長意欲の高い環境がその土台となることを押さえておく必要があるでしょう。
20代、30代の社会人に聞いた!ビジネススキルの伸ばし方
では、実際に社会で活躍している人たちはどのようにビジネススキルを磨いているのでしょうか。20代、30代の社会人316人にウェブアンケートで聞きました。アンケート結果によると、ビジネススキルを磨く方法は「メディアや講座から新たな知識を得る」と「周囲の人から学び改善点を探る」の大きく2つに分かれるようです。
メディアや講座から新たな知識を得る
新たな知識を得る方法としては「ビジネス書を読む」が最も多く、29.1%を占めていました。「ビジネスで昔から変わらず大切にされてきた考え方をビジネス書で学び、実践している」「成功している人の仕事術を書籍から学んで実践したら、仕事で成果が出るようになった」などの具体的な声からも、ビジネス書で学んだことを職場で実践し、スキルアップにつなげる人が多いことがわかります。
「PCスキルの研修を受ける」が23.7%、「セミナーやeラーニングで学ぶ」が16.1%で続きます。
「PC研修のおかげで、作成する資料が評価されるようになった」「セミナーでの学びを実践し続けていたら、自信を持って部下とコミュニケーションが取れるようになった」などの声から、研修での学びが業務の質や効率の向上につながっている様子も見受けられました。
周囲の人から学び改善点を探る
仕事の改善点を探る上では、「上司や同僚のノウハウをまねて実践する」が26.9%で最も多く、「チームメンバーと積極的にコミュニケーションをとる」が24.4%で続きました。
「同僚からの情報をヒントに、仕事が効率良く進むよう工夫している」「上司のノウハウをまねると、業務効率が上がり、お客様とのコミュニケーションもスムーズになった」など、先輩たちのリアルな声を見ても、周囲の人から学んだことを自らの仕事に生かしている人は多いようです。
「気づいたことはメモや備忘録を残し、レビューできるようにしておく」(23.1%)については、「メモを活用して同じ失敗を繰り返さないように工夫している」という声が多く上がりました。
ビジネススキルの身につけ方について、中尾さんにも教えてもらいました。
学生時代からビジネススキルは鍛えられる! 具体的な習得法と身につけておきたい習慣とは?
一流企業・経営者のノウハウを徹底的にまねる(TTP)
―― 再び中尾さんに伺います。ビジネススキルを習得する上で役立つ方法について教えてください。
アンケート結果にもあるように、ビジネス書に書かれていることや身近な人の「まねをする」ことは有効です。「学ぶ」の語源は「真似ぶ(まねぶ)」であり、先人の行動や考え方をまねすることだとされています。
模倣に徹する「TTP」で成功のノウハウやコツを体得
ポイントは「徹底的に」まねることです。「徹底的にパクる」を略した造語で「TTP」と呼ぶこともあります。スポーツや芸術では、基礎となる型やフォームを重視し、身体に染み込むまで繰り返し訓練します。仕事でも同様に、まねしやすいところだけではなく、細部まで徹底的にまねしてください。取り入れやすいところだけ再現しても、成功に必要なノウハウやコツを取りこぼしてしまいます。
特に、高い業績や結果を残している人や成功事例から学んでください。世界をリードする企業など、最高レベルのノウハウや事例を調べて学ぶことをおすすめします。世界や日本を代表する企業は、多数のヒット商品や成功事例を生み出して成長したからこそ今の姿があります。
「温故知新」とよく言いますが、時代を超えて生き残っている書籍や理論から学ぶこともよいでしょう。どの時代でも通用する知識や経験は、守るべき原理原則に近いからこそ、これまで受け継がれています。「ビジネスで昔から変わらず大切にされてきた考え方をビジネス書から学んだ」という声は、TTPの良い事例です。
習得したものを自分なりに進化させる
TTPで徹底的に学んだ後は、自分なりに進化させられるとよいでしょう。身につけた基礎を生かして、少し難易度の高いテーマを設定したり、新たな課題にチャレンジしたりすることで、さらなる成長を遂げられます。
好奇心と広い視野をもって情報収集する
―― ノウハウを調べて学ぶためには情報収集が大切ですよね。情報収集のコツを教えてください。
自分の専門分野とは一見関係のないような話も含め、常に好奇心と広い視野を持ってインプットすることも大切です。
ジェームス・W・ヤング「アイデアのつくり方」でも情報収集が第1ステップ
米国の実業家であるジェームス・W・ヤング氏は著書「アイデアのつくり方」(1988年)で、新しいアイデアとは既存の要素の新しい組み合わせだと定義しました。また、新しいアイデアを生み出すためのステップは5段階あり、情報収集は1つ目のステップとしてその重要性を説いています。
創造的なアイデアは、異なる2つ以上の要素の組み合わせから生まれます。例えば、新幹線の先頭部分がカモノハシに着想を得て設計されたことがその一例です。新幹線の設計者は専門知識だけでなく、日常的に広い視野で情報を取り入れることで新しいアイデアを誕生させることができたのでしょう。
他分野の知識の応用が専門性を深める
このように、他の分野の知識を取り入れて応用することは、自分の専門性を深める基盤づくりにつながります。そのため、自分の興味関心分野以外にもアンテナを張り、広い視野で情報収集することが必要となるのです。
そこで役立つツールが新聞です。新聞は情報の網羅性が高く、自分の視野を広げる上でとても効果的だからです。
新聞はビジネススキルを身につける上で効果的
社会人316人へのアンケートでビジネススキルを身につける上で新聞は効果的かと尋ねたところ、7割以上の人が「効果的だ」と回答しました。
その理由として挙げられた具体的な声をいくつか紹介します。
・要点がコンパクトにまとまっていて、必要な情報が効率よく手に入るから
・社会情勢の全体像がわかり、物事の本質を見抜く力を養えるから
・自分の仕事に関わる分野以外にも幅広い知識が得られ、視野が広がるから
・新聞から得た情報や伝え方がお客様とのコミュニケーションに役立つから
・社会のニーズやビジネスのヒントが得られるから
また、アンケートに答えた新聞購読者の約4割が「ビジネススキルを向上させるために新聞を読んでいる」と回答しています。
偶然の出合いがイノベーションのきっかけに
―― アンケートでは、新聞がビジネススキルの向上に効果的だとする声が多く上がりました。ビジネススキルを身につける上で、新聞はどのような点で効果的でしょうか。
インターネットで情報収集すると、どうしても自分の興味関心に合った情報に偏りがちです。ウェブサイトの閲覧履歴などに基づき、自らの嗜好(しこう)に合った情報が優先的に表示されるため、異なる意見を目にしづらくなっていませんか。これでは自ずと視野が狭まり、自分の思考の枠を超えて考えられなくなります。その結果、イノベーションを起こしにくくなってしまうんです。
その点、紙面を広げてながめることで、興味のない情報も自然と視界に飛び込んでくることが新聞の魅力です。たまたま紙面から手に入った情報が、新たなイノベーションを起こすアイデアのタネになるかもしれません。
精度の高い情報に触れられる
―― 他に、新聞がビジネススキルの向上に役立つポイントはありますか。
常に新鮮で信頼性の高い情報に触れられることです。
新聞記事は記者が足を運んで得た生の情報を基に書かれ、事実関係に誤りがないかを複数人でチェックした上で発信されています。新聞で一次情報に近い質の高い情報に触れることで、物事の全体像や本質を理解できるようになります。
仕事をうまく進め、キャリアを切り開くには、自分なりの判断基準や考えを持つことが大切です。新聞、SNSやネットニュース、テレビなど、複数のメディアから幅広く情報を集め、物事を多角的に見るからこそ、「自分ならどう考えて行動するか」を総合的に判断し、導き出す習慣が身につきます。
新聞の効果的な読み方
1日5分、見出しに目を通す「ブラウジング」
―― ビジネススキルの向上につながる新聞の読み方があれば教えてください。
新聞を読み慣れていない人からすると、いきなり全てを読むのは難しいかもしれませんね。まずは、1日5分程度で各記事の見出しにざっと目を通す「ブラウジング」をしてみましょう。特にその日の重要ニュースが載っている1~3面は、興味関心のない分野のトピックも読んでみてください。その日のニュースの全体像を把握した上で、気になる記事があればじっくり読み込むとよいでしょう。
情報の関連性を意識しながら読む
また、情報の関連性を意識しながら読むことも大切です。一見まったく無関係に思える記事だったとしても、それぞれから得た情報を関連づけることで、1つの結論が見えてくることがあります。
私の経験ですと、少し先の円相場を読もうとした時、一見無関係に見えた日銀総裁の仕事のスタンスについて書かれたコラム記事の内容を組み合わせることで、円相場の今後の動きが予想できたこともありました。何か解決したい物事がある時は、気になる記事の内容と関連がないか考えながら読むよう習慣づけてみましょう。
複数の新聞で記事を読み比べる
同じ話題に関する複数の記事を読み比べ、物事を多面的に見る習慣を持つとよいでしょう。同じ事象でも視点が変われば見え方が大きく変わるため、1つの視点から物事を理解するだけでは不十分です。他の新聞やメディアでの見方、捉え方も必ず確認し、客観的な視点から情報を取捨選択するようにしてください。
私自身も気になる話題を中心に、日本の新聞と海外のニュースソースを読み比べるなど、必ず複数の情報源から得るようにしています。
早くからビジネススキルを身につけ、社会人生活を充実させよう
ビジネススキルを身につけるための具体的な方法について、経営者サポートを手掛ける中尾隆一郎さんに聞きました。
ビジネススキルはGoal(ゴール、目的)、Pre(事前準備)、On(実行・修正)、Post(振り返り)のサイクル「G-POPマネジメント」を繰り返し回すことで身につきます。その際、常にゴールを意識すること、即時にフィードバックすること、良い環境に身を置くことが大切です。
また、ビジネススキルを鍛える上では、世界や日本をリードする企業の成功事例や時代を超えて受け継がれてきた理論や書籍から学び、徹底的にまねすることも効果的です。そのためには、日頃から広い視野で情報収集を怠らないことが大切です。中尾さんには情報収集ツールとして有効な新聞の読み方も教えてもらいました。
学べば誰でも習得できる、ビジネススキル。今回紹介した社会人のリアルな声も参考に、仕事やキャリア形成に役立てていきましょう。
株式会社中尾マネジメント研究所(NMI)代表取締役社長 中尾 隆一郎(なかお・りゅういちろう)さん
1989年リクルート入社。リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートワークス研究所副所長を歴任。リクルートの社内勉強会では「KPIマネジメント」「数字の読み方・活用の仕方」の講師を11年間担当。2019年に「中尾マネジメント研究所」を設立。著書に「最高の結果を出すKPIマネジメント」(フォレスト出版、19年)など。
<調査概要>
【調査手法】インターネットアンケート
【調査対象】20〜30代の会社員・経営者・フリーランスの人
【調査期間】2024年4月3~22日
【回答者数】316人
2024年5月24日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです