「子どもがなかなか集中してくれない」「何を始めてもすぐに飽きてしまう」ーー子どもの集中力が続かないと悩んでいる親は少なくありません。
「子育てベスト100 ー『最先端の新常識×子どもに一番大事なこと』が1冊で全部丸わかり」(ダイヤモンド社、2020年) の著者で教育ジャーナリストの加藤紀子さんに、子どもの集中力が続かない原因と集中力を高める具体的な方法について詳しく話を聞きました。
「日常の小さなことをきっかけに、子どもの集中力は高まります」と語る加藤さん。親がしてはいけないことと、子どものためにやってほしいことの両面からアドバイスをもらいました。
教育ジャーナリスト 加藤紀子さん
目次
子どもの集中力が続かない?その原因と子どもの特徴とは
集中できる時間の目安は「年齢+1分」
―― 子どもの集中力が続かずに悩んでいる親は少なくないようです。子どもの集中力にはどのような特徴がありますか?
一般的に、子どもが集中できる時間は「年齢+1分」くらいだと言われています。そのため、子どもは大人に比べると集中できる時間が基本的に短いと考えられているんです。
このことを理解すると、親の考える集中力と子どもの集中力には認識のズレが起きていることがわかります。「親が集中してほしい時間」と「子どもが集中できる時間」にズレがあると、親は子どもに対して「集中力がない」と思ってしまうわけです。
見方を変えれば「好奇心旺盛」
――なるほど。子どもの集中力そのものに対する親の理解が不足しているということですね。
心理学では、ある枠組みで捉えている一つの事象を異なる枠組みで捉えることを「リフレーミング」と言います。つまり、見方を工夫すれば、別の捉え方ができるということです。
この考えに立つと、「子どもに集中力がない」ことは「好奇心が旺盛である」とも捉えられるでしょう。
どんな子でも興味を引くものが目の前にあれば、集中できるはずなんです。例えば、赤ちゃんはよく、ティッシュを箱から何枚も何枚も取り出して遊びます。その行動も、実はその子なりに集中しているんですよ。
次から次へと他のことに関心が向きやすい子は、どうしても「集中力がない」「落ち着きがない」というレッテルを貼られがちですが、見方を変えれば、好奇心旺盛でチャレンジ精神にあふれている子だと言えるのではないでしょうか。
あなたの子どもはどのタイプ?8つの知能タイプとは
――子どもの特徴を理解する上で、知っておくべきことは他にもありますか?
子どものタイプを理解することは重要です。ここで言うタイプとは性格だけでなく、物事の認知や処理の仕方などの知能も含めた特徴のことを指します。
子どものタイプを知る上で助けになるのが、1983年に米ハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論」です。
「多重知能理論」では人間の持つ知能は次の8つのタイプに分類されると考えられています。
「長時間机に向かえない」「静かに勉強できない」と悩んでいる保護者には、子どものタイプに適した学習法を提案したいですね。
例えば、パズルや図形が得意な「空間的知能」タイプは、絵や写真で説明を受けると理解が進み、高い集中力を発揮して、効率的に学習するようになります。
これまで私が出会ってきた子どもの中には、歩きながら単語を覚える「身体運動的知能」タイプの子や、覚えたい事柄をボイスレコーダーに録音し、それを聞きながら暗記する「音楽的知能」タイプの子もいました。
――学校での座学が苦手な子どもがいても不思議ではないということですね。
そうですね。子どもが幼い時はなかなかわかりづらいかもしれませんが、小学校に入学して「落ち着きがないな」「学校の勉強がうまくいっていないな」と感じた時は、あまり悩まずに発想を変えてみるとよいでしょう。
なにより子どもを好きなことに没頭させて、内側から湧き出るモチベーションを保ってあげることが大切です。集中力は強い好奇心から生まれるからです。
子どもの集中力がないと感じる原因は?デジタルデバイスの影響も
――これらを理解した上でも、子どもに集中力がないと感じる場合、どんな原因があると考えられますか。
昨今の急速なデジタル化が背景にあると思います。現代の子どもたちは、幼い頃からデジタル機器に囲まれて育っている「デジタルネーティブ」と呼ばれています。
現代はIT技術の発達により、便利さと楽しさにあふれている一方で、子どもにとっては集中しづらい側面があると言えるかもしれません。スマホでのゲームやSNSなど過度にのめり込みやすいものが身の周りにあると、注意散漫になるのも無理はないでしょう。現代の家庭は集中を妨げかねないデジタルデバイスに囲まれています。
このあとご説明するように、必要なのはまず、親自身が子どもにやってはいけない行動パターンを理解することです。その上で、子どもの集中力を向上させる効果的な方法を1つ1つ試してほしいと思いますね。具体的な方法もこのあとご紹介します。
子どもの集中力を高める上で、親がやってはいけない行動パターン
――子どもの集中力向上を考えた時、親が避けるべき行動は何でしょう?
子どもの意欲を削ぐことや結果だけを見て褒めることなどはおすすめできません。いくつか例を紹介しますね。
あまりにも難しい目標を設定すること
あまりにも難しい目標を設定すると、子どものやる気がなくなってしまいます。子どもが「これならできるかも」と思えるぐらいの目標を設定してあげましょう。
滑り台を例に挙げてみるとわかりやすいかもしれません。滑り台を怖がる子がいきなり一番上から滑ることは難しいけれど、真ん中辺りから滑らせてあげて、高さを少しずつ上げていく。恐怖を克服した喜びを感じながら、最後は楽しく一番上から滑れるようになります。
少しだけ難しい目標を設定するように意識すると、子どものわくわくする気持ちをうまく引き出せるようになると思います。
すぐに答えを与えること
子どもの疑問に対して、すぐに答えを与えるのはもったいないです。
子どもはすぐに答えを与えられてしまうと、自分で試行錯誤して考える力を身につけられません。子どもが疑問に思うことがあれば、グッとこらえて親も一緒に考えるように意識づけることが大切だと思います。
答えまで近道をせず、あえて回り道をすることで子どもの好奇心や集中力が育まれます。
結果だけを見て褒めること
結果だけを見て褒めることも控えましょう。結果に至るまでの過程や子どもの努力を褒めることが重要です。
子どもは、純粋に「楽しい」と思える時に頑張るものです。「スポーツで1位が取れた」と結果だけで評価すると、かえって楽しい気持ちが損なわれてしまうことがあるんです。
むしろ、「すごく頑張ってたもんね。ずっと見守っていたよ」とプロセスを褒めてあげると、子どものモチベーションが上がっていくと思います。
親がスマホを不必要に触りすぎること
親子のコミュニケーションの時間は大切にすべきです。そのためにも、親自身がスマホを不必要に触りすぎないように心掛ける必要があります。
せめて子どもとの食事や絵本の読み聞かせの時間だけはスマホを遠ざけるようにしてほしいと思います。
例えば、誰かからメッセージが来たからといって読み聞かせを中断させたら、子どもはどう思うでしょうか。せっかく絵本の世界に没頭していたのに、親がスマホを手にして本を読むのをやめてしまったら・・・。子どもはとても残念な気持ちになるはずですね。
親自身がスマホから一定の距離を置くことで、子どもと向き合える時間は自然と増えます。子どもの集中の妨げにならないよう、スマホの取り扱いに注意しましょう。
子どもの集中力を高めるための4つの方法
――親子でいっしょに取り組める具体的な方法を教えてください。
まずは、環境を整えること。次に、集中力を高めるトレーニングを取り入れることを心掛けます。
シンプルな環境を保つ | 部屋と机をきれいに
――環境面では何をすればよいでしょうか。
普段から子どもが集中できるよう、部屋をなるべくシンプルな環境に保つようにしましょう。部屋に物が散乱していると、脳に余計な視覚情報が送られてしまうため、脳の処理負荷が増加し、注意や集中が妨げられると考えられています。
必ずしもいつも部屋を完璧に片付ける必要はありませんが、勉強する時は「机の上だけでもきれいに片付けておく」「余計な教科書やおもちゃなどは机の上に出さない」といったルール付けを子どもにしてあげるのがよいでしょう。
勉強を始める前のルーティンを決める | 机を拭く、1杯の水でスイッチを
――他にも方法はありますか?
集中力を向上させるには、勉強を始める前のルーティンを決めておくことも有効です。子どもが「集中しやすくなるスイッチ」を決めるのです。
例えば、机を拭いてきれいにしてから宿題をする、コップ1杯の水を飲んでから勉強に取り掛かるーーといったことが挙げられます。
わが家でも、勉強の前に子どもが机を拭くことをルーティンにしていました。子どもの気持ちの切り替えに役立っていたと思います。
勉強に集中した時間を測る | 小さなステップを段階的に
――勉強中の集中を維持するにはどうすればよいでしょうか?
集中して勉強した時間をタイマーで測って、段階的にステップを踏ませることを意識するとよいでしょう。
知っておくべきことは「子どもが集中できる時間の目安」です。冒頭でもお伝えしたように、人が集中できる時間は「年齢+1分」くらいだと言われています。
例えば、未就学児から低学年の場合、算数のプリントを終わらせるのに10分かかるなら、前半を5分、後半を5分に分けるなど、小さなステップに分割すると子どもは集中しやすくなります。また、完了した時の達成感を得やすくなるため、子どもの自信にもつながります。
ここで注意したいのは、最初に親子の間で決めた「今日の勉強の量」を早く終わらせた場合です。親は、ついつい「まだ時間があるから、もう少しやってもらおうか」と欲が出てしまいます。そこはグッとこらえて、早く終わらせた子どもの頑張りを認めてあげてください。
絵本の読み聞かせで想像力を刺激 | 子ども新聞も効果的
――他にも、子どもの集中力を高める方法はありますか?
絵本の読み聞かせは子どもの集中力向上にとても役に立つとされています。
絵本のストーリーは物語の展開やキャラクターの描写によって想像力を刺激します。子どもは物語の中の出来事や登場人物をイメージする必要があります。想像力は脳の働きを促進し、集中力を高める助けとなります。
子どもに何度も同じ絵本を読むようせがまれた経験はありませんか?
子どもは親に読んでもらうたびに、絵本の世界に入り込み、毎回異なる視点で物語を味わっています。そのため、結末がわかっていても何度も読んでもらいたくなるんです。
読み聞かせでは、ストーリーの内容に合わせて「主人公はどうしてこうしたのかな?」「この時はどんな気持ちだったと思う?」と子どもに尋ねてあげると、考えるきっかけを与えられて読み聞かせの時間により集中してくれると思います。
―― 読み聞かせが集中力を高めるということですが、絵本以外にも効果的なものはありますか?
物語以外の文章や話題に触れる機会を増やしてあげるのが大切です。
ある程度文章を理解できる年齢であれば、子ども新聞を読み聞かせる方法もあります。子ども新聞は文章がわかりやすく、取り上げているトピックも幅広いです。
それと同時に、まずは親自身が新聞を読む習慣を身につける必要もあると思います。
親子でいっしょに新聞を | 好奇心が集中力高める
親が新聞を読むことで「新しいことを知る楽しさ」伝える
――なぜ、親が新聞を読むことが効果的なのでしょうか?
大人が新聞を読む目的の一つは、新しい知識を増やすことだと思います。
テレビやスマホでは、ニュースや情報がプッシュ型で提供されるため、流れる情報につい受け身になってしまいます。これに対して新聞は、自分の関心やニーズに基づいて記事を選んで読むので、情報を能動的に取得できます。
そうする過程で、親自身が新しいことを知る楽しさを子どもに示すことでき、結果的に子どもにも良い影響を与えます。
「子は親の鏡」とも言いますよね。親が興味を持って新聞を読んでいると、子どもも自然と新聞に関心を示すようになると思うんです。
いっしょに読めば自然に集中 | 子どもの興味・関心の幅が広がる
――新聞を読むことには他にもメリットがありますか?
親が子どもに新聞を読んであげて、いろいろな話題を提供できると、子どもの好奇心が高まります。やがて子どもの興味・関心の幅が広がります。
また、紙の新聞を読むようにすることで、デジタルデバイスから離れる時間を作れるのもよい点だと思います。紙面を広げて一緒に読むことで、自然と新聞だけに集中できるようになり、子どもとのコミュニケーションも取りやすくなります。
さらに、親子でいっしょに新聞を読むと、思いがけないトピックに会話が弾むこともあるでしょう。今まで知らなかったトピックについて詳しく知ることで、子どもがこれまで興味がなかったことに関心を持つきっかけにもなるかもしれません。
先ほどお話ししたように、集中力は強い好奇心から生まれます。
子どもの語彙が増え、言語化能力が高まる
――子どもの教育には、どんな影響があるのでしょうか?
親子で新聞をいっしょに読むことで、子どもは新しい言葉や表現を覚える機会を得られます。親が子どもに、記事で使われている単語や文章の意味を説明し、子どもが記事の内容を理解する手助けをすることもできます。
結果的に、子どもの語彙(ごい)が増え、言葉の理解力を向上させることが期待できます。また、子どもの言語化能力の向上にもつながるでしょう。
例えば、いっしょに読んだ新聞記事について、「この出来事についてどう思う?」と、お互いに自分の言葉で意見や感想を伝えるようにします。対話を重ねるごとに、子どもは社会的な視野が養われ、自分の考えや感情を適切に表現できるようになるでしょう。
親としては、子どもが立派に成長して、社会人になった時に困らないようにしてあげたいですよね。新聞の読み聞かせを、ぜひ子どもの集中力を高める教育の1つとして役立ててほしいなと思います。
子どもの集中力を高めるためのポイントまとめ
子どもの集中力に対する考え方や集中力を高める方法について、教育ジャーナリストの加藤紀子さんに話を聞きました。
まずは、子どもが集中できる時間の目安を知っておくこと、8つの知能タイプのうち子どもがどれに近いのかを観察することが重要です。
また集中力を高めるには、部屋や机をきれいに整える、勉強前のルーティンを決める、勉強に集中する時間を測って少しずつステップアップする、絵本や新聞を読み聞かせるーーといった方法が効果的です。
そして「集中力は強い好奇心から生まれる」という話は、子育ての大切なヒントになりそうです。子どもの好奇心を刺激し、関心や視野を広げるために、親子でいっしょに新聞を読む時間を作ってみてはいかがでしょうか。
加藤紀子(かとう・のりこ)さん
教育ジャーナリスト/教育情報サイト「リセマム」編集長
1973年京都市生まれ。東京大学経済学部卒業。受験、英語教育などの分野を中心に執筆・取材活動をしている。著書に、17万部のベストセラーとなった「子育てベスト100ー『最先端の新常識×子どもに一番大事なこと』が1冊で全部丸わかり」(ダイヤモンド社、2020年)のほか「ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房、22年)「海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか」 (ポプラ社、23年)がある。
2023年8月9日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです