【村田諒太さんに聞く】新聞の一覧性が世界広げる

ボクシング元世界王者 村田諒太(むらた・りょうた)さん

1986年生まれ。奈良県出身。2012年、ロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得。13年プロデビュー。17年に世界ボクシング協会(WBA)世界ミドル級王者となる。日本人ボクサーで初めて、五輪金メダリストのプロ世界王者となった。趣味は読書。


ロンドン五輪金メダル獲得が、活字にのめり込むきっかけ

 

 活字にのめり込むきっかけは、2012年のロンドン五輪の金メダル獲得だった。金メダルを取れば充足感に満たされ、その後の人生を満足して生きていける。そう信じていたが、現実は違った。

 ボクシングは、肉体は強くなっても、名声を求め、誰かと比較して自分の優位性をアピールする競技だ。プロに転向し、成功すればするほど傲慢(ごうまん)になり、ひずみが生まれて精神性を欠いていく気がした。その原因を理解し、戒めとするために読書を始めた。

 

愛読書はビクトール・フランクル「夜と霧」「死と愛」

 

 好きな作家は、ナチスの強制収容所から生還したビクトール・フランクル。「夜と霧」「死と愛」などを愛読している。事実ベースで、生き方や人間性の表れたものが好きだ。

 数年前からは、人にお薦めの本を聞いている。自分の好きな本ばかりでは、世界を狭めてしまう気がするからだ。偏った知識で変に理論武装しないよう、バランスに気を付けている。

 

世界とつながるためのネットが、世界を狭めている

 

 本や新聞は、手触りやにおいなど感覚を使って読めるところが好きだ。デジタルにはない魅力だし、これからも大切にしたい。

 今のインターネット社会では自分の趣味嗜好(しこう)が読み取られ、アルゴリズムで最適化された情報ばかりが流れてきがちだ。世界とつながるためのネットが、逆に世界を狭めているという危機感を感じている。

 その点、新聞は一覧性がある。興味がないことでも、自然と目に入る。いろいろなものを読み比べ、自身の考えを決めていけばいい。

 物事の裏側まで明らかにするような、深掘りした記事を期待している。専門性こそが、これからの新聞の魅力になると思う。

2023年5月24日公開