「後輩をうまく導けない」「同僚との関係構築が難しい」など、職場でのコミュニケーションに課題や苦手意識を感じている人は多いことでしょう。なかには、状況の改善に向けてスキルアップに取り組みたいけど、何から始めるべきかがわからないと悩んでいる人もいるかもしれません。まずは「傾聴力」を身につけるところから始めてみませんか。
「傾聴力」は事実だけでなく、相手の気持ちまで含めて理解する力のことです。多様な考え方や価値観を持つ人たちと協力して仕事を進めるために必要不可欠なスキルとして、近年その重要性が高まっています。
「『ねえ、私の話聞いてる?』と言われない『聴く力』の強化書 第2版」(自由国民社、2021年)の著者であり、傾聴教育の専門家として活動する岩松正史さんは「傾聴力は人間関係の基盤を作り、問題解決にも役立つスキル」として、その有用性を説いています。
では、傾聴力は具体的にどのように身につけ、職場で生かせばよいのでしょうか。鍛えるための習慣と合わせて、岩松さんに伺いました。
一般社団法人日本傾聴能力開発協会代表理事 岩松正史(いわまつ・まさふみ)さん
目次
傾聴力とは?|3つの「聞く」「聴く」「訊く」から考える
傾聴力の定義
―― 「傾聴力」とはどのようなスキルでしょうか。
「傾聴力」とは、話し手が伝えようとしていることを表面的な言葉だけでなく、その背景にある意図や感情・感覚まで含めて理解する力のことです。
日本語だと、同じ「きく」でも「聞く」「聴く」「訊く」の3種類の漢字で表しますが、傾聴は「聴く」に当たるものです。
―― ビジネスで求められる傾聴力について教えてください。
例えば、お客様の満足度を上げたり、トラブルやクレームを解決したりするためには、関わる人の気持ちを動かすことが必要になります。ここで求められるのが、相手の気持ちや意図まで含めて理解する傾聴力です。もちろん、傾聴力は社内の良好な人間関係を築くためにも有効です。
傾聴力の基盤として、事実関係を間違えないように聞くことが求められます。3種類の「きく」の中では「聞く」に当たるものです。事実関係や出来事を正確に理解した上で、相手の気持ちに気を配ることが、ビジネスをうまく進めるコツとも言えます。
なお、「訊く」は「理解するために尋ねること」を意味し、ビジネスシーンでは、質問スキルとして重視されています。「聞く」と「聴く」のどちらにも関わるスキルです。
傾聴に必要な姿勢とは?ロジャーズの3原則
肯定的関心、共感的理解、自己一致
―― 傾聴する際、具体的にどのような心がけが必要でしょうか。
「傾聴」そのものは、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した「来談者中心療法」がベースだとされており、話し手に自分の心と向き合うことを促すことで、気づきや内面的な変化を起こす聞き方だと言われています。
ロジャーズは「来談者中心療法」の事例から「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」の3つの姿勢が有効だったとしています。
「無条件の肯定的関心」とは、善悪の判断や否定・非難をせず、相手を1人の人間として尊重し、受け入れることです。
「共感的理解」とは、話し手が感じていることや話し手にとっての意味や価値を理解しようとすることです。話し手の感覚や感情を事実として認めることも含まれます。
「自己一致」とは、聴き手が自分自身の感じていることをありのまま受け入れることを意味します。聴き手が話し手と向き合う自分の状態を客観的に観察し、必要があれば、自分の気持ちや感覚を正確に表現できる状態です。
これら3つの姿勢を身につけることが、傾聴力の向上にもつながります。
傾聴力が求められる「VUCAの時代」
立場や価値観が異なる人と協力するための対話スキルが傾聴力
―― なぜ、傾聴力を高めることが今の時代に求められているのでしょうか。
時代やビジネスを取り巻く環境の変化が激しくなっているからです。VUCAと呼ばれる、変化の激しい時代になり、これまでと異なるコミュニケーションの取り方が求められるようになりました。立場や価値観の異なる人たちと協力しながら、新しい価値を生み出していくことが必要になります。
また、2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」では、能力要素の一つとして「傾聴力」が挙げられています。
傾聴力をはじめとする「コミュニケーション能力」は、職場や学校など社会のあらゆるシーンで必要とされます。あなたは自分のコミュニケーションレベルがどれくらいかあるのか、気になったことはありませんか?
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1on1ミーティングの広がりも「傾聴」の大切さの表れ
そのような流れの中、1on1ミーティングの導入によるチームワーク向上や業務効率化を図った大手企業の事例が注目を集めるなど、メンバーの気づきや成長を促すようなコミュニケーションを取り入れようとする企業が増えてきました。
――コロナ禍で普及したテレワークによる影響はありましたか。
テレワークの普及も大きく影響しています。出社が当たり前だった頃は、仕事以外も含めた状況、会話やテキスト以外から伝わる雰囲気や空気感など、物理的に同じ空間で過ごすからこそ共有できる情報がたくさんありました。
一方、テレワークは物理的な距離がある分、共有できる情報が限られます。加えて、一度も会ったことがない人と仕事を進める場合は心理的な距離が生まれていることもあり、その解消から始める必要があります。
このような時代の流れや企業を取り巻く環境の変化に伴い、お互いの考え方や価値観を理解するためのコミュニケーションスキルとして、傾聴力がより重視されるようになりました。
傾聴力を高めることで得られる効果
職場の心理的安全性が高まり、人間関係が良好になる
傾聴で満たされる「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」
―― 傾聴力を身につけるメリットについて教えてください。
傾聴力は、職場のコミュニケーションや関係作りの基盤である「心理的安全性」を高める上で効果的です。これは、心理学者アブラハム・マズローが提唱した「マズローの欲求5段階説」で考えると良くわかります。
「マズローの欲求5段階説」とは、人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求(所属欲求)」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの階層にわかれ、低層の欲求が満たされることで、上層の欲求を持つようになるという理論です。
傾聴は「安全欲求」から上の階層の欲求を満たせるコミュニケーションの手法です。相手の話を否定せず、非難せず、価値判断をせず、ありのままを受け入れる聴き方が傾聴です。その姿勢が職場の心理的安全性を保ちます。
―― 関係作りの基盤ができた後に関係性を深める上でも、傾聴力は役立つのでしょうか。
傾聴力を身につけることで、相手の気持ちを理解しようとする姿勢を示せるため、自然とよい関係ができあがります。そのまま対話を重ね、心のつながりが生まれると、相手の「社会的欲求」も満たされます。加えて、行動や結果も含めて認めるような声掛けができれば、より上位の欲求である「承認欲求」も満たされますよね。
業務効率や生産性が向上し、問題が解決しやすくなる
―― 職場の心理的安全性が高まると、日々の業務ではどのような変化が起きるのでしょうか。
コミュニケーションが密になり、認識のズレや誤解によるトラブルを未然に防ぐことができます。それによって業務効率や生産性の向上が期待できます。小さな変化や気づきを気軽に共有できる状態なら、こまめに認識のすり合わせができるので、何か問題があっても早期の解決が見込めます。職場の雰囲気が「何を言っても無駄だ」と思うような状態では、大事な報告や意見を上げづらいものです。
「主訴(相手が伝えたいこと・気持ち)」が把握できる
また、表面的に理解したことだけで問題を解決しようとしても、相手の心の奥底には不満が残っていたり、お互いの気持ちがすれ違ったままになったりすることもありますよね。傾聴力が身につくと、言葉の文字通りの意味だけでなく表現のちょっとしたニュアンスや相手の口ぶり、表情などから主訴をつかみ取れるようになります。主訴とは「要するに何を伝えたいのか」「どういう感情を抱いているのか」という相手の主張の要点です。主訴に適した対応や解決策を提案することで、問題を正しく解決することはもちろん、問題が解決したあとも建設的な関係を築くことにつながるでしょう。
「同感」ではない「共感」の技術が身につく
思い込み・感情と事実を分けて冷静に判断できる
―― 傾聴力を身につけると、他にどのようなメリットがありますか。
「共感」の技術が身につき、感情的になったり、先入観を持ったりせず、冷静な判断ができるようになります。
人の話を聞きながら、無意識のうちに自分の意見や過去の経験との共通点や違いを探していることはありませんか。「私と同じだ」や「私もわかる」などのように、「私」を主語にして賛成や反対をする状態は「同感」と言います。傾聴で求められる「共感」、つまりロジャーズの3原則でいう「共感的理解」とは違います。「共感」は、「相手がどう思うかがわかる」ことです。
傾聴力が身につくと、自分の感情や価値観は脇に置き、「相手はそう感じている」「相手にとっては〇〇だ」など、相手の感覚や感情を事実として受け入れられるようになります。その結果、自分の思い込みや感情と事実を切り離して判断できるようになります。
傾聴力を鍛える3つの技術
―― 身につけるメリットが多い傾聴力。効果的な鍛え方を教えてください。
傾聴には「うなずき、あいづち」「くり返し」「伝え返しや質問」の3つの技術があり、段階的に身につけることが効果的です。
うなずき、あいづちが傾聴の基本 | コツは「踊るあいづち」
相手が安心して話せるように
まずは傾聴の基本である「うなずき、あいづち」の習得から始めます。具体的には、うなずきやあいづちを取り入れ、相手が安心して話せる状態を作ります。うなずきやあいづちを通して、相手を理解しようとする気持ちが自然と伝わるような状態が理想です。
コツは「踊るあいづち」を意識することです。誰かと一緒に踊る時は、お互いに息を合わせながら動きをそろえていきますよね。会話も同じように、話し手の気持ちやトーンの変化、テンポに合わせて反応し、2人で一緒に会話のペースを作っていくことが必要です。
楽しい話から真面目な話に変わっては戻るなど、会話の間、話し手の気持ちは常に上下します。話し手の気持ちの変化に合わせて聴き方を変えることで、話し手は同じ気持ちを聴き手とわかち合えているように感じられます。うなずきやあいづちを入れつつ、常に話し手と同じ気持ちを味わいながら聴くことを心がけてみてください。
くり返し(リフレクション) | 相手の感情をなぞり応答する
傾聴の基本「うなずき、あいづち」が身についたら、「くり返し」の習得に取り組みます。一般的に「リフレクション」とも言われるものです。ポイントは、相手の発言のうち事柄に当たる部分ではなく、表現されている感情をくり返して返事することです。
言葉には、事柄を表す言葉と気持ちを表す言葉の2種類があります。事柄とは「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、誰に、どうやって、いくらで、どのくらい」という6W3H、いわゆる状況や事情のことです。一方、気持ちを表す言葉とは形容詞をはじめ、意味や価値を表す表現のことです。
言葉の端々に表れる相手の気持ちを読み取る
例えば、話の中で「やっと〇〇に行ったんだけど」と言われたとします。ここで気持ちを表す言葉は「やっと」と「だけど」です。形容詞ではありませんが、この単語だけでも「長く願っていた」「願いとは裏腹に、良くないことが起きた」ことはわかりますよね。
【会話例】
ビジネスにおいては事実の確認をするために事柄を聞き返して確認することがほとんどでしょう。ただ、話し手が気持ちを受け止めてもらったと心から感じるには、言葉の端々に表れる相手の気持ちを、見落とさずに聴くことを心がけましょう。
伝え返し、質問 | 相手の思考や理解を促す
最後に、聴き手から声をかけることで相手の思考や理解を促す、「伝え返し」「質問」を身につけます。
伝え返しで要点をまとめ、認識のズレを確認
「伝え返し」では、相手の発言を咀嚼(そしゃく)して要点をまとめ、認識のズレがないかを確認します。聴き手が要点をまとめて伝え返そうとする時は、聴き手自身の言葉に置き換えて表現しますよね。それが、話し手自身の表現したいニュアンスと違った場合、話し手はその違和感から認識のズレに気づき、訂正しやすくなります。
【会話例】
質問で相手の気がかりな点を探る
「質問」とは、相手が気がかりなことを明らかにするような問いかけのことです。発言や話題に上がっていない「どこが気になるのか」「どこに困っているのか」を尋ねてみると、相手は思考を整理できます。
【会話例】
職場で傾聴力を発揮するためのコツ
日頃から話し合える関係を築く
雑談でも否定しない、非難しない、価値判断しない
―― 傾聴力を職場で発揮する際に、心がけるべきことはありますか。
日頃から気軽に話し合える関係を作ることが大切です。本音は安心できる関係性があるからこそ話しやすくなるのであり、必要な時だけ引き出せるようなものではありません。業務に関わる話か雑談かを問わず、否定や非難、価値判断をせずに聴ける関係性を普段から築いておくことが必要です。
会話の中で、話し手が「なんとなく」「うまく話せない」と答えた場合は、「なんとなくそんな気がするんだね」「今はうまく言葉にできないんだね」のように、その気持ちや状態も含めてまるごと受け止めてあげてください。そこで無理に引き出そうとすると、話し手は「うまく言葉で表現できない自分は受け入れられないんだ」と萎縮してしまい、その人との関係性が崩れてしまうことさえあるかもしれません。
沈黙を恐れずに待つ
―― 会話の際、沈黙や間ができると不安になります。この場合、どうすればよいのでしょうか。
沈黙を恐れる必要はなく、間ができてもしばらく待ちましょう。とはいえ、いきなり待てと言われても不安ですよね。
そこで、まずは破ってもよい沈黙とそうではない沈黙があることを理解しましょう。会話の中で間ができる時、相手は何かをイメージし、自分自身と対話しながら考えている可能性が高いのです。
声をかけるタイミングは、相手の視線を観察して判断
―― 沈黙を破ってよいかどうかを判断する目安や基準はありますか。
相手が考え事をしているかどうかは、視線の向きで判断できます。視線がこちらとは別の方向を向いていれば、考えている真っ最中。声をかけずに待つ方が無難です。一方、相手の目がこちらを見ているなら、こちらからすぐに声をかけた方がよいでしょう。
「間ができたら5秒は待つ」など、自分なりのルールを決めることもおすすめです。5秒以上間が空いたとしても、沈黙を恐れないことで生じる自分の変化や感覚の違いに目を向けてみてください。
若手社会人におすすめの質問の技術
「この理解で合っていますか?」「気になることはありますか?」
―― 先ほど、聴き手の質問や発言を通して、相手の思考や理解を促すというお話がありました。職場で役立つ問いかけの仕方を教えてください。
「〇〇という理解で合っていますか?」は、若手社会人にも取り入れやすい質問です。例えば、上司や先輩から受けた指示の内容を、要約して確認する時に活用できます。お互いの認識にズレがないかの確認になることはもちろん、相手の話を理解したと示すことにもなるため、安心感や信頼感を与えられます。
相手の質問や提示された話題の意図を尋ねることも効果的ですよ。仮に上司から「この案件、どうなっている?」と聞かれたら、進捗や現状を答えるだけでなく、「その件について、どこか気になるところがありますか?」と聞いてみましょう。上司の答えから、質問の意図や背景を理解する手がかりが得られるはずです。
相手の気持ちを引き出す問いかけを
質問に意見や主張を混ぜ込むのはNG
―― 聴き手自身に知りたいことがある場合は、どのように問いかければよいのでしょうか。
その場合は「私は〇〇が気になっているんだけど、どう思う?」のような形で、自分の気がかりを先に開示しましょう。
ポイントは、あくまで「そう感じている」という事実だけを伝え、相手の気持ちを引き出すような問いかけをすることです。質問に意見や主張を混ぜ込むと、話し手の答えを制限しかねません。
また、相手が言葉を濁した場合に聞き流さず、相手が伝えようとしている事実と主張を切り分けて、確認してみることも有効です。例えば、同僚が「やるにはやったんだけど…」と歯切れが悪そうにしていたら、「“けど”が気になるんだけど、どういうことかな?」と尋ねてみるといった具合です。
そのためには、日頃から事実と主張を切り分けて考え、理解する習慣を持っておくことが重要です。これは、仕事や日常生活における会話に限らず、SNSやメディアを通じて情報を見聞きする時にも当てはまります。ただ、SNSは発信者の立場がさまざまで、事実と主張の見分けがつきにくいことがあります。傾聴力の土台を作るためには、日常的に新聞を読んでみるのがよいでしょう。
新聞で傾聴力を磨く | 「主訴」をつかむトレーニング法
事実と主張を仕分けながら読む
―― 新聞は傾聴力を身につける上で効果的でしょうか。
新聞は「事実」と「主張」を切り分ける力を身につける上で役立ちます。新聞には事実を伝えている部分と、記者の主張や意見が書かれている部分がありますよね。さらに、文字で表現されているため、映像や音声のように見逃したり、聞き取れなかったりして情報が流れていく心配もありません。自分のペースで情報をインプットできます。
記者の主張に触れて「共感」の技術を磨く
同時に、新聞を通してさまざまな主張や意見に触れることで、傾聴力の発揮に必要な「共感」の習得にもつながります。新聞に目を通していると、自分の意見とは異なる主張や考え方に触れることもあるでしょう。たとえ記者の見解や主張に同感できない場合でも、「記者はこう考えている」という事実を受け入れながら読むようにすると、相手の感覚や感情を事実として受け入れる「共感」の技術を磨く練習になります。
書き手が伝えたいポイントを考えながら読む
―― 他にも、傾聴力を高める上で新聞が役に立つポイントはありますか。
主訴をつかむとは「要するに、何を伝えたいのか」を理解することです。そのためには、会話全体の流れや発言の内容を的確に理解してまとめる力が必要です。
読み続けると、主訴を的確に理解できるように
新聞記事には記者独自の視点や問題意識が表れます。日頃から「書き手が何を伝えようとしているのか」を考えながら記事を読み続けることで、記者の意図を的確にくみ取れるようになります。会話の中でも、話し手が伝えようとしていることを自然と理解できるようになるでしょう。
また、新聞記事は重要度の高い情報ほど前に来る構成なので、大事なポイントをつかみやすいのが特徴です。書かれた文章の内容を的確に理解できるようになると、会話での伝え返しもスムーズにできるようになり、主訴を的確に把握することにもつながります。
傾聴力を高める新聞の読み方
―― 傾聴力を高める上で効果的な新聞の活用法を教えてください。
気になった記事を選び、事実だけを抽出する
毎日気になった記事を一つ選び、記事の中から事実だけを抽出して書き出してみるとよいでしょう。実際に書き出してみることで、自分が「事実」と解釈したものを確認できます。抽出したものを見返すと、思った以上に「事実」ではないものを抜き出していることに気づくでしょう。これをくり返すうちに、事実と主張を切り分けて理解する力が身につきます。
記事中の表現を生かして要約する
記事で使われている表現を使って要約するトレーニングもおすすめです。ポイントは、記事を解釈して自分の言葉に置き換えないこと。話し手の気持ちを受け入れながら聴くためには、話し手が思いを乗せた言葉を尊重する姿勢が重要です。記事で使われている表現をそのまま使って要約することで、自らの価値観で解釈したくなる心の動きを客観視するきっかけになります。
複数の新聞を読み比べて、違いを読み解く
同じトピックについて、複数紙を読み比べることも大切です。例えば、特定の地域に大きく影響する国の政策を扱う場合、地元の新聞は全国紙よりも重点的にそのトピックを深掘りし、住民により近い視点や立場から話を展開するでしょう。「どの立ち位置から見た見解なのか」「両者の主張の違いにはどのような背景があるのか」といった視点を意識して読んでみると、いろいろな気づきが得られると思います。
さまざまな立場や視点に触れながら、その違いを読み解けるようになることで、客観的かつ多角的な視点が身につき、傾聴力を発揮する上でも役立ちます。
日々の習慣で傾聴力を鍛え、社内外のコミュニケーションに生かそう
傾聴力を鍛えるためのステップや職場での生かし方について、日本傾聴能力開発協会代表理事の岩松正史さんに話を聞きました。
傾聴力を鍛えるには、「うなずき・あいづち」「くり返し」「伝え返し・質問」の3つの技術を順に身につけることが有効です。また、傾聴にあたっては、相手の気持ちに共感すること、相手の主訴を的確につかむこと、事実と意見を切り分けることが大切です。簡単に取り入れられる傾聴力のトレーニングとして、新聞記事の「事実」と「主張」を分類する方法や、記事の表現を生かしつつ要約する方法、複数の新聞を読み比べて違いを読み解く方法も解説してもらいました。
継続的にトレーニングすれば、傾聴力は必ず向上します。日々の習慣で傾聴力を鍛え、職場でのコミュニケーションで積極的に生かしていきましょう。
一般社団法人日本傾聴能力開発協会代表理事 岩松正史(いわまつ・まさふみ)さん
傾聴心理師(公認心理師、キャリアコンサルタント)大学卒業後コンビニエンスストア本部スーパーバイザーからWeb制作会社への転職に失敗し失業。教育系企業に入社し傾聴事業部を立ち上げる。2005年から傾聴教育を専門に実施。2015年に一般社団法人日本傾聴能力開発協会を設立。「聴く人が楽に聴ける傾聴」を信条とし、企業や団体向けの研修や講演を行っている。
2024年4月26日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです