プロティアン・キャリアで未来を描く!自分らしい生き方を歩む新時代のキャリアスタイル

「大学を卒業して、何となく入社した今の会社。このまま同じ仕事を続けていいのだろうか」「将来に備えて何か準備しなくては・・・。でも、何をしたらいいんだろう」

そのような悩みを抱えている方に知ってほしいのが、自分の意思で変幻自在にキャリアを形成する「プロティアン・キャリア」という考え方です。

ここでの「キャリア」とは、昇進・昇格、転職・独立などビジネス上の成果や転機だけでなく、仕事以外のライフイベントを含めた「人生そのもの」を指します。

社会人のキャリア開発に詳しい眞殿裕美さん(プロティアン・キャリア協会最高キャリア事業責任者〈CCO〉)は「今の状況にとらわれ過ぎず、未来志向でキャリアを考えることが大切だ」と指摘します。特に、変化が激しい今の時代は、社会や環境の変化に目を向けながら自らのキャリアを主体的に考え、行動し続けることが重要です。

より良いキャリアを築くためには良質な情報をインプットする習慣を身に付けることが鍵を握るようです。その重要性と具体的な手法について、眞殿さんに伺いました。

 

 

一般社団法人プロティアン・キャリア協会CCO  眞殿 裕美(まどの・ひろみ)さん

一般社団法人プロティアン・キャリア協会CCO  眞殿 裕美(まどの・ひろみ)さん

 

 

現代版プロティアン・キャリアとは

 

プロティアン・キャリアの定義 ――「キャリア開発」と呼ぶことも

 

―― プロティアン・キャリアとは、どのような考え方でしょうか。

 

社会や環境の変化に応じて、自分の意思で仕事や働き方を変えながらキャリアを積み上げ続けるための考え方です。自分のキャリアを描き続けることは、自分らしく働き続けるための土台となります。

プロティアン・キャリアは1976年に米ボストン大学経営大学院のダグラス・ホール教授によって提唱されました。「プロティアン」という言葉は、ギリシャ神話で思いのままに姿を変える神プロテウスが語源となっていて、「変化し続ける」「変幻自在な」という意味があります。そこに「キャリア」を掛け合わせ、変化に適応しながら自らの将来を自由自在につくり上げるキャリア論の呼称となりました。

 

――いわゆる 「キャリアデザイン」とは異なる考え方でしょうか。

 

自分のキャリアを主体的に考えて、デザインするかのように設計する意味では、「キャリアデザイン」も「プロティアン・キャリア」も大きな違いはありません。同じく、自律的にキャリア形成をしていくことを指す「キャリア開発」という用語を使うこともあります。

いずれにせよ、将来どのようなキャリアを歩みたいかを決め、その実現に向けて計画的に行動していくことが大切です。

その上で、現代版プロティアン・キャリアでは、行動を積み重ねる「プロセス」を大切にしています。そのプロセスを通して蓄積される能力や経験を「資本」と捉え、「キャリア資本」を蓄積することに重きを置いています。

 

キャリア資本という考え方

 

――  キャリア資本とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

キャリア資本とは、自分のキャリアを形成・発展させるための知識、スキル、経験、人脈、ネットワークなどの総称で、「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」の3つに分けられます。これまでの自分のキャリアで何を得てきたか、そしてこれから何を得ていくべきかを3つに当てはめながら考える必要があります。

ビジネス資本は、仕事に役立つ知識や経験、問題解決力、変化への関心と適応力などを指します。

社会関係資本は、人とのつながりを指します。家族・友人・同僚などの「強いつながり」と、SNSや他のコミュニティーとの「弱いつながり」に分類できます。

経済資本は、収入や貯蓄、金融リテラシーなどを指し、長い人生を生き抜く上で必要不可欠なお金に関する知識や判断力もここに含まれます。経済資本は、蓄積したビジネス資本と社会関係資本を活用することで最大化できます。そのためには「専門性を武器にした職に就く」「人脈を生かして新しいビジネスを生む」などいくつかの方法が考えられます。

 

キャリア資本は「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」の3つ

 

従来のキャリアとプロティアン・キャリアの違い

 

―― 従来のキャリアとプロティアン・キャリアの違いについて教えてください。

 

これまでは、定年まで同じ企業で働き続ける終身雇用が前提で、一度どこかの会社に入社すれば、一生涯会社が仕事と収入を保証してくれました。定年後の再就職先まで保証されていたケースもあります。会社から与えられた義務を果たし、そこから得られる地位や報酬が重視されていました。どちらかというと、受け身の姿勢で形成されるキャリアと言えます。

一方、現代は転職や副業が一般的になり、1つの会社だけでキャリアが完結する人は減少しています。社会や環境の変化に合わせて、今取り組むべき仕事や果たすべき役割を個人が主体的に考えながら、キャリアを形成していくことが必要です。従来のキャリアと比較すると、プロティアン・キャリアは能動的に形成されるキャリアと言えます。主体的なキャリア形成では、その過程で得られる成長、自分の物差しで計る満足感や幸福感といった心理的成功を大切にしています。

ただし、自分の成長のために働くことと自分勝手に働くことは異なります。企業が目指す姿と個人のありたい姿で重なる部分を見つけた上で、自分自身が何ができるのかを考える必要があります。

 

従来のキャリアは受け身の姿勢で形成されるキャリア。プロティアン・キャリアは能動的に形成されるキャリア。

 

―― 具体的にどのように考えていけばよいのでしょうか。

 

「自己認識(アイデンティティー)」と「変化適応力(アダプタビリティー)」のバランスが大切です。「アイデンティティー」は自分の価値観、興味関心や能力を知り、自分らしくあることです。一方、「アダプタビリティー」は社会や組織などの外部環境を知り、適応することを意味します。

自分らしさを追求し過ぎて「アイデンティティー」だけが強い状態だと、「なぜ周囲は私を理解してくれないんだ」といら立ちます。反対に、外部環境に適応するだけでは「自分は何がしたいんだろう」「何のために働いているんだろう」と空回りしている感覚に陥ります。

「アイデンティティー」と「アダプタビリティー」が共に充実している状態が理想だと言えます。

 

「アイデンティティー」と「アダプタビリティー」が共に充実している状態が理想

 

 

プロティアン・キャリアを形成するメリット・効果

 

視座が上がり、心理的成功を実感できる

 

―― プロティアン・キャリアを形成すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 

まずは、心理的成功を実感できます。

従来のキャリアの成功基準はその会社での昇進や昇給が中心で、「会社の中で生き残れるか」が行動の物差しになることが多かったです。この状況では、自分らしさを持ちながら働く喜びは感じにくかったかもしれません。

一方、変化が激しい時代には、会社の中だけでなく社会や市場全体で自分の立ち位置を確認し、その中でどう自分らしさを発揮できるかが重要になってきます。その過程を通じて、自分自身の視座が高まり、心理的成功を感じやすくなるのです。

視座を高めれば、従来は気づけなかった新しい視点やアイデアが浮かび、それを実際に行動に移すことができます。その結果、キャリアの選択肢を広げることにつながります。

 

昇進のチャンスも期待できる

 

――今の職場で成果を上げたいと考えている人にもプロティアン・キャリアを形成するメリットはありますか。

 

プロティアン・キャリアを形成することで視座を高めることができ、自身の最適なキャリアの積み方を俯瞰(ふかん)して考えられるようになります。そこから、自分が果たすべき役割や取り組むべきことを導き出せるので、常に高いモチベーションを保った状態で、目の前の仕事に向き合うことができます。結果的に周囲の評価が得られ、組織内での昇進にもつながるでしょう。

 

人生の満足度が上がる

 

―― 仕事以外にも良い影響があるのでしょうか。

 

プロティアン・キャリアを形成すると、人生に対する納得感や満足感が生まれます。会社から与えられたレールの上を歩き続けてきた時とは違い、主体的に自分のありたい姿を考え、その実現に向け行動し続けるからです。

高い地位や報酬が自分にとって大事なことなら、そこに向けて努力することはとても素晴らしいことです。一方、「周囲から評価されるから」や「一般的に評価されるから」という他人軸で考えた状態で、高い地位や報酬を求め続けるとしたらどうでしょうか。きっと違和感が生じて、疲弊してしまいます。

大切にしたい価値観を「自分軸」で考えているからこそ、自分らしい人生を歩めるようになり、それが自分自身の幸せにつながります。

 

「大切にしたい価値観を自分軸で考えているからこそ、自分らしい人生を歩めるようになる」と語る眞殿さん

 

 

プロティアン・キャリアを形成するために大切にしたい3つのこと

 

①自己分析を深め、外部環境を知る

 

―― プロティアン・キャリアを形成するためには、何から始めればよいのでしょうか。

 

自己分析を深め、外部環境を知ることが大切です。たとえ自分が好きで得意なことであっても、それが社会に必要とされていなければ、結局空回りしてしまうからです。

プロティアン・キャリアでいう「アイデンティティー(自己認識)」と「アダプタビリティー(変化適応力)」ですね。

自分の「好き」と「得意」、外部環境の「お金になる」と「需要がある」、4つの要素それぞれが重なり合うところがその人の「ikigai(いきがい)」と言える部分です。

 

自分の「好き」と「得意」、外部環境の「お金になる」と「需要がある」、4つの要素それぞれが重なり合うところがその人の「ikigai(いきがい)」と言える

 

自己分析を深めるには、自分にとって好きなこと、得意なことを言語化することが重要です。学生時代や仕事以外のことも含めこれまでの人生を振り返ってみましょう。「何に取り組み、どのような役割を果たしてきたか」「趣味や興味のあることは何か」などについて考えると、自分を表すキーワードがいくつか出てきます。それらを書き出して、「好き」と「得意」に当てはめていきます。

ここで表れたキーワードは、自分が大切にしている価値観とも言えます。自分を構成する価値観は1つではないので、複数の価値観を組み合わせて考えることが大切です。

例えば、「承認」が大切な価値観の1つだったとします。承認を得ることだけを考えてしまうと、他人の評価に振り回されてしまうかもしれません。「承認」の他に「成長」や「努力」など、大切にしている他の価値観も掛け合わせることで、「成長を感じながら努力を続けた先に、承認されると満足感を覚える」のように結果だけでなくその過程も含めて考えることができます。

 

自分を構成する価値観は1つではないので、複数の価値観を組み合わせて考えることが大切

 

―― 外部環境については、どのような方法で理解を深めればよいのでしょうか。

 

いきなり「外部環境を知ろう」と言われても、どのように調べるのかがわからず、困ってしまう方も多いですよね。そんな方には「PEST分析」と呼ばれる手法がおすすめです。

PESTとは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字をとったもので、この4つの領域に外部環境を整理していくと、網羅的に洗い出せます。

 

PEST分析とはPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の領域で外部環境を整理していくこと

 

例えば、最近話題になっているAIツールは「テクノロジー」の領域に入ります。

AIツールの登場によって「今後の生活やキャリアにどのような影響がありそうか」「所属する会社や業界ではどのような変化が起きそうか」を自分事として考えていくことが大切です。その際は、5年後、10年後など長期的な視点で考える意識を持つことも必要です。

これは、次の「未来の目標を立てる」際にも大切な視点なんですよ。

 

②未来の目標を段階的に設定する

 

―― 未来の目標を効果的に立てるコツを教えてください。

 

自分が目指す姿や目標の解像度を上げることです。例えば、単に英語を勉強すると決めても、なかなか続きませんよね。ここでいう「解像度を上げる」とは「英語を勉強して何がしたいのか」まで言語化することです。最終的な目標にたどり着くためには何が必要かを考えることで、中期的・短期的な目標がおのずと見えてきます。

先ほどの例で言うと、「英語ができるようになって海外拠点で働きたい」が長期目標です。その前段階として必要な中期目標を考えると、「海外事業部に異動すること」が見えてきます。同じように考えると、「まずは部署を異動するための語学要件を満たそう」といった短期目標も導き出せます。

目標が明確になれば、あとはそこに向けて「行動」を積み重ねていくことが何より大切です。

 

③情報をインプットする習慣を身につける

 

―― 行動を積み重ねるにあたって、どのような点を意識すべきでしょうか。

 

行動についても目標設定と同様、まずは習慣的に取り組める小さなことから始めるとよいと思います。

小さなステップの一つとしておすすめしたいのが、情報をインプットする習慣を身につけることです。

情報のインプットは「ビジネス資本」の蓄積に分類され、ビジネスリテラシーの強化につながるんですよ。

例えば、読書は有効なインプット手段です。1冊に時間をかけ過ぎず、量をこなすことで効率的に知識を吸収できます。月に2冊以上を目標に、幅広いジャンルの本をどんどん読んでいきましょう。

グローバル化が進んでいることを考えると、英語学習も重要な取り組みです。特に世界を舞台に活躍したい人には重要な「ビジネス資本」です。

 

―― 他には何か良い方法はありますか。

 

プロティアン人材に必要とされる14の行動をまとめた「プロティアン・キャリア診断」も活用できます。

 

プロティアン人材に必要とされる14の行動をまとめた「プロティアン・キャリア診断」

 

「ビジネスリテラシー」を鍛えることができる1〜3番目は、まさにインプットする習慣で、他の項目と比べても取り組みやすいと思われます。

1番目に挙がっている「新聞の購読」は、毎日取り組みやすい習慣の1つで、社会の状況を把握する上で必須とされています。私も2つの新聞をお金を払って読んでいます。

他のメディアやSNSからも情報は得られますが、興味関心のある情報を効率良く得られて便利な半面、自分の興味関心から外れた情報に触れる機会は得にくいんです。その点、新聞は情報の網羅性が高く、視野を広げる上でとても有効なツールだと思います。

 

プロティアン・キャリアに新聞は効果的?

 

プロティアン・キャリアに新聞が役立つ理由

 

―― プロティアン・キャリアを形成する上で、新聞は有効でしょうか。

 

新聞は外部環境を知るツールとして鮮度が高く、信頼性の高い媒体です。例えば、国家間の紛争、為替相場の変動や感染症の流行など、いずれもどの程度長期化しそうかや、私たちの生活やビジネスにどのような影響があるのかなどを考える必要がありますよね。社会で起きた出来事に対して、記者が現地に足を運び、専門家に直接話を聞きながらまとめた記事は1次情報に近く、自分なりの見通しを立てる際に役立ちます。

自分の興味関心を知るヒントも新聞から得られます。記事の見出しをながめるだけでも、自分の興味関心のあるトピックは自然と目に入りますよね。例えば、同じAIに関する記事でも、絵が描ける、動画を作成できる、文章を要約できるなど、取り上げられているAIの活用法は違います。そのうちのどこに自分の関心があり、どのように活用したいかを考えることで、自己理解を深められると思います。

私の場合、法律系のトピックが好きで、法改正がある場合には「どんな風に変わっていくんだろう」と考えながら記事に目を通しています。それに関連する統計データも好きですね。仕事で必要な調査データを作成する際にも、新聞で目にした統計データを参考にしています。

 

プロティアン・キャリアに新聞が役立つ理由は「外部環境の変化をつかめる」「自分なりの見通しを立てられる」「自己理解が深まる」の3つ

 

まずは見出しをながめることから始めよう

 

―― 新聞を読み慣れていない人も増えています。どのように活用していけばよいでしょうか。

 

毎日5分から15分の短い時間で良いので、1面(初めのページ)にある見出しだけでも必ず目を通すようにしましょう。見出しを見れば、何が起きているのかを瞬時にキャッチアップできます。同時に、目についた見出しをメモしておくと、自分の興味関心の方向性を知る上で役立ちます。

多様な視点を得るためにも、複数紙を読み比べるとより良いでしょう。これから地方で活躍していきたいと考えている方には、地方紙もおすすめです。地方紙には地域の生活に密着した情報が多数取り上げられています。地域のニーズを知り、自分に何ができるかを考える上で参考になるんです。私自身は、地方紙と全国紙の両方を購読していて、地域の情報は地方紙から得るようにしています。

また、新聞を読んだ後に、SNSやブログなどを活用して、自分の感想や意見をまとめて発信することも良いでしょう。このような発信を続けていくことで、自分の関心事や価値観がより明確になります。結果的に、周りに同じ関心事を持つ人たちとのつながりを持つことができます。そこで生まれたつながりは「社会関係資本」の弱いつながりとしても蓄積されるんですよ。

 

新聞を活用してプロティアン・キャリアを形成するためには「毎日見出しだけでも読み、メモをする」「地方紙も含めた複数の新聞を読み比べる」「新聞を読んだ後にSNSなどで感想や意見を発信する」ことが重要

 

プロティアン人材として自分らしいキャリアへの一歩を踏み出そう

今回は、プロティアン・キャリア協会の眞殿裕美さんにプロティアン・キャリアの意味と必要な行動について教えていただきました。

変化の速いVUCAの時代において、自分らしいキャリアを築き上げるためには、常に未来志向で考えて行動することが大切です。そのためには、自己理解を深めて外部環境を知ること、目標を段階的に設定すること、より良い情報をインプットする習慣を身につけることが重要です。習慣的に取り組めることの1つとして、新聞を毎日読むこともおすすめです。

キャリアに悩むのは自分の人生と真剣に向き合っている証拠です。未来に目を向けて、自分らしくいられるキャリアを築いていきましょう。

 

一般社団法人プロティアン・キャリア協会最高キャリア事業責任者(CCO) 眞殿 裕美(まどの・ひろみ)さん

一般社団法人プロティアン・キャリア協会最高キャリア事業責任者(CCO)
眞殿 裕美(まどの・ひろみ)さん

システムエンジニアとして、専門システムのコンサル・導入設計・構築・運用業務に約18年間従事。部下のキャリア支援のためにキャリアコンサルタントの資格を取得。
2020年に2級キャリアコンサルティング技能士を取得後、プロティアン・キャリア協会認定ファシリテーターとして研修やキャリア面談の運営に携わる。23年4月から現職。
また、“IKIGAIチャート”を活用した自己理解&戦略策定プログラム「IKIGAI LIFE」を開発し、ワークショップを運営。同協会の「ウェルキャリラボ」の一員として、女性のリーダーシップ開発のための研修プログラムを開発し、女性のキャリア開発支援に力を入れている。

 

 

2023年10月23日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです