「情報が見えない社会」で自分の生き方を見いだす

特別インタビュー

「情報が見えない社会」で自分の生き方を見いだす

 

水王舎 代表

出口 汪(でぐち ひろし)さん

 

 現代文のカリスマ講師の出口汪先生は、新聞を読んで「論理力」を高めることが、これからの時代に必要だと提唱している。「情報化社会」と呼ばれ、多くの人がスマートフォンやSNSから、時間も場所も選ばず自由に情報を得られるようになった今だからこそ、社会を生きて働いていくためには、新聞を読むことが大切だという。その真意とは?

 

相手の立場から考える力を

 多くの人がスマートフォンやSNSを利用するようになりました。現代は「情報化社会」と呼ばれていますが、私は「情報が見えない社会」になっていると感じます。インターネットの普及によって、紙の新聞や本を読まなくても、いつでも無料で様々なジャンルの情報を得られる時代になりました。さらに「AI(人工知能)」の進化に伴い、自分の好みや価値観にマッチした情報ばかりが自動的に集まってくるため、おのずと他に目をやる余裕がなくなっていると思います。

 自分の求める情報が効率的に入手できることは確かに便利ですが、私は恐ろしい現象だと危惧します。21世紀となった今も、宗教観や歴史観が異なる国や地域間での争いが絶えません。それぞれの国には独自の教育や価値観があることを理解しないと、互いにいがみ合うだけの状況から抜け出せないでしょう。

 様々な立場の人が生きる社会の一員として、私たちには、「相手の視点に立って物事を考える力」が求められています。

 

多様な意見に触れよう

 相手の立場から物事を考える力を養うには、まず、自分の周りに集まる情報のすべてが客観的だとは限らないと認識する必要があります。特に指向性や価値観が似ている人たちでグループを形成しやすいSNSの世界では、自分に都合の良い、自分を愛撫する情報ばかりが集まってくる傾向があります。それを認識した上で、グループの外にいる人は全く異なる情報に触れて意見を形成していることを理解しなければ、「自分が正しく、相手が悪い」という二項対立に陥ってしまいます。

 多様な立場や幅広い視点から発信された情報に、日々触れることが大切です。それを手軽にできるのが新聞です。新聞の情報は、必ずしも自分が興味のあることや、自分にとって都合の良い内容ばかりではありません。紙の新聞は一度に全体を見渡せる一覧性があり、社会全体の動きをキャッチでき、多様な意見に触れることができます。

 

社会人は論理的に話せる力が必要

 私は一貫して「論理力」、つまり物事を筋道立てて説明できる力の大切さを訴えています。社会に出ると、論理的に話さなければならない機会が格段に増えます。人を納得させる論理性のある情報には、内容を裏付ける根拠やデータが示されています。しかし、ブログなどネット上の情報は、発信者の主観的な意見や感情に基づくものが多いのが実態です。そうした情報環境に置かれている我々にとって、様々な情報の真偽を見極め、上手に活用する力「メディアリテラシー」を身につけることが大切です。

 新聞はネットに比べ、情報に客観性があります。また、新聞の記事が個別に語る事実や知識もさることながら、紙面に掲載される多くの記事から、現在はどのような社会なのかを捉えることができます。文章のプロが書いた記事を毎日読むことで、論理的に世界を捉える力も鍛えられます。世界の動きや様々な主張を把握し、自分の考えをそれと照らし合わせる習慣をつけることで、人間的な深さや教養を身につけることができます。

 この激動の時代に、自分がどう生きていくべきか、明確な答えはありません。自分で様々な情報に触れ、その情報の真偽を見定め、より適切な判断を下す。こうした姿勢は、能力や技術が身につくということにとどまらず、その人の生き方を豊かなものにしてくれるのではないでしょうか。

 こうした力を身につけるために、関心のある記事を要約して自分の考えをまとめた「ストックノート」を作るなど、新聞を活用しましょう。

 

 

出口汪(でぐち・ひろし)

1955年生まれ。東京都出身。広島女学院大学客員教授、立教大学講師、日本語・論理力を育成するための教材などを出版する「水王舎」代表取締役。著書多数。

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