大学生のキャリアや就職活動をサポートする「キャリアセンター」。学内にあるのは知っているけど、どうやって使えばよいのかよくわからないという方もいるかもしれません。
キャリアセンターでは、企業の採用活動・インターンシップの情報提供やエントリーシートの添削、面接の模擬練習など就職活動に役立つ様々な支援を受けることができます。
今回は、拓殖大学キャリアセンターの就職部長の来田健さんに、就活生がキャリアセンターを使うメリットや効果的な使い方について話を聞きました。
来田さんは18年にわたり学生のキャリア支援を務め、現在は全国私立大学就職指導研究会会長を務める就活サポートのプロです。長年の経験に基づく就職活動を成功させる秘けつについても教えてもらいました。ポイントは「自己成長の実感」と「情報収集」です。
現役就活生はもちろん、これから就活を控えている学生にも参考になるはずです。
拓殖大学就職キャリアセンター副センター長兼就職部長 来田健さん
目次
キャリアセンターとは就活生の「駆け込み寺」
進路の不安に寄り添う相談窓口
ーー キャリアセンターは学生にとってどのような存在なのでしょうか。
キャリアセンターとは、専門の職員と学部の教員が一緒になって学生のキャリアを総合的に支援する部署です。特に、学生の将来を左右する就職活動の支援に力を入れています。
多くの学生は、就活や卒業後の進路について不安を抱えています。キャリアセンターは、そんな学生が気軽に相談できる場所であり、困った時に足を運びたくなる「駆け込み寺」のような存在だと思っています。
キャリアセンターの支援内容
就活生に向けたキャリアセンターの主な支援内容には、次の4つが挙げられます。
・採用・インターンシップの情報提供
・エントリーシートの添削
・面接の模擬練習
・合同企業説明会
採用・インターンシップの情報提供
キャリアセンターでは、企業の採用情報やインターンシップの情報を学生が希望する進路や関心のある分野に合わせて提供しています。
これらの情報は、口頭での説明だけでなく、掲示物やオンライン上で閲覧でも確認できます。一般公開していない求人情報や、特定の地域や業界に絞った求人情報も閲覧できます。
大学によっては定期的にメールマガジンで配信しているケースもあります。最新の採用・インターンシップ情報や関連するイベント情報をメールやポータル配信、掲示板による案内などでいち早く届けています。
また、キャリアセンターの職員が学生の希望に合う企業を個別に紹介する場合もあります。
エントリーシートの添削
企業に提出するエントリーシートの書き方指導や添削も行っています。
採用担当者の注目を引く書き方、内容になっているかを客観的な視点で確認し、具体的にフィードバックしています。志望動機を論理的な視点でチェックしたり、自己PRに加えるエピソードを一緒に考えたりと、エントリーシートをより魅力的にするためのアドバイスを提供しているんです。
事前にエントリーシートを作成してきた場合、キャリアセンターの職員に提出することで添削指導やアドバイスを受けられます。
模擬面接
職員が面接官役となり、模擬面接を実施しています。面接官と1人で向き合う個人面接や、大学によっては複数の学生によるグループ面接の練習ができます。面接時の良い点や改善すべき点から態度や表現、身だしなみなど細かなポイントまで具体的にアドバイスしています。
企業の人事担当者を招いて「模擬面接」を実施する大学もあります。
ただテクニックを教えるだけでなく、面接時に自分らしさを伝えるためのアドバイスを意識しています。
自分自身を素直に表現し、自信を持ってアピールできる学生は、企業に強い印象を与えることができます。そのため、キャリアセンターの職員は学生の強みや興味関心事を把握した上で、的確な指導をできるように準備しています。
合同企業説明会
複数の企業を招き、学生向けの就職説明会も開催しています。
各企業が個別のブースを設けて、主に企業の人事担当者が具体的な採用情報や自社の特徴を説明します。
キャリアセンターは身近なサポーター
ーーキャリアセンターは、就活生に限らずどの年次の学生でも利用できるのでしょうか。
はい、キャリアセンターは何年生でも利用できます。
例えば、学部の初年次教育の一環として「就職ガイダンス」を実施しています。キャリアセンターの職員が基礎的な情報を話すこともあれば、講師を招いて特定の業界や職種などについて解説してもらうことがあります。
各年次の学生のニーズに合わせたイベントや研修を提供しています。
ーー民間の就活支援会社(就職エージェント)もキャリアセンターと同じようなサポートを受けられます。キャリアセンター ならではの強みは何でしょうか。
就活エージェントは効率よく企業の情報を手に入れられる点はメリットと言えますが、学生の状況を把握した上でのサービス提供が難しい場合があります。
キャリアセンターは、学生1人1人とじっくり向き合いながら親身なサポートを提供します。学生の性格や志向性を理解した上で、企業を紹介するようにしています。そのため、初めてキャリアセンターを利用する学生には、ミスマッチが起きないよう、いきなり特定の企業を紹介しないようにしています。
キャリアセンターは大学内にある学生のための就職相談窓口です。学内でしか受けられない情報や職員の的確なアドバイスなど、身近なサポーターとして最大限に生かしてほしいと思っています。
キャリアセンターは怖くない?初めてでも大丈夫?
ーー学生はどれぐらいの頻度でキャリアセンターを利用していますか。
キャリアセンターに訪れる回数や期間は、目的に応じて異なります。
例えば、就活に不安を抱えて全面的にサポートを望んでいる学生は、週に1〜2回利用しています。一方で、自分の力で就活を進められている学生の中には、重要な面接を控えているタイミングだけ利用する人もいます。
本学の場合、多い時では年間約1万件を超える相談が来ています。コロナ禍で相談件数が約半分に落ち込んだこともありましたが、今は回復しつつあります。
ーーキャリアセンターに対して「面談の時に怒られる」「怖い」というイメージを持っている学生もいるそうですが、実際どうなのでしょうか。
確かに、そういったイメージを持っている学生はいますね。
例えば、まだ内定をもらえていない4年生が慌ててキャリアセンターを利用した際、面談を重ねるうちに安心感を抱いたのか「もっと早く来ればよかった」と言ってくれたことがありました。この学生も、利用する前までは「厳しい指摘を受けるかも。怖いイメージがあった」と思っていたそうです。
学生の就活や将来のことで、何か理不尽なことを言われたり、怒られたりすることは決してないので、安心して利用してもらいたいと思います。
私自身も学生時代、就活で挫折した経験があります。学生の相談を受ける際は、悩みに寄り添うことをモットーにしています。
キャリアセンターは学生が気軽に利用できる場所
使わないのはもったいない!キャリアセンターの使い方
実際に利用するまでの流れ
ーーキャリアセンターを利用する際、学生が準備すべきことはありますか。
基本的に準備することはありません。強いて言うなら「まずは相談してみよう!」という1歩を踏み出す勇気でしょうか。
「何を相談したらいいのかわからず来てしまいました」というケースでも全く問題ありません。何がわからないのか、何にモヤモヤしているのか、学生が抱える悩み事を整理することもサポートの一つですから。
もちろん「履歴書を書いたのでチェックしてください」という具体的な相談は歓迎です。
ーーいつ来ても面談はしてもらえるのでしょうか?担当者は毎回同じ人でしょうか?
学校によりますが、個別面談を申し込む場合は基本的に予約する必要があります。また急な相談に対応できるように、予約なしで利用できる枠を設けている場合もあります。
予約時に職員を指名できる学校もあります。指名制に加えて、申し込み順に担当職員を振り分ける大学もあれば、学科別に担当職員を置いている大学もあります。
もし特定の担当者が自分には合わないと感じた際は、変更しても問題ありません。
キャリア支援のプロ直伝!就活を成功させる秘けつ
大学生活の経験を通じて自分の成長を実感する
ーー学生のキャリア支援を20年近く手掛けられているプロの目線で、就活のために学生が日頃から意識すべきことがあれば教えてください。
まず、学生の皆さんには大学生活を充実させてほしいと思っています。学業はもちろんのこと、サークル活動、ボランティア活動、交換留学など、さまざまなことに積極的に打ち込んでほしいです。学内外の人と多くの関わりを持つことで、視野が広がります。自分が好きなことややりたいことを客観的に見つめ直す自己分析の機会にもなります。さまざまな活動に取り組んだ結果、多様な価値観を醸成することにつながります。
さらに、自分が一度やると決心したことは、最後まであきらめずにやり抜くことも意識してほしいと思います。就活も同じですね。
さまざまな経験を通じて、挫折や失敗が起きてもあきらめずに乗り越えることで、自分の強みや弱さについて気づきを得られます。目標を達成した時だけでなく、挫折を乗り越えた時に、自分の成長を実感していくものだと思います。
情報収集力に長けている学生は就活を自走できる
ーー就活がうまくいく学生もいれば、なかなかうまくいかない学生もいると思います。その差は何だと思われますか?
就活は「情報戦」という側面があります。自分が応募する企業の業績、文化、価値観、採用基準など詳細な情報を収集する必要があります。エントリー前に、その企業が自分の志向に合致するかどうかを判断するためです。
そこで、信頼性のある情報を取得し、必要な情報を取捨選択する情報収集力が求められます。
得た情報を自分なりに咀嚼(そしゃく)し、実際にエントリーするかどうか意思決定の判断材料にします。情報収集が上手な学生は、就活のために必要な行動を自分なりに考えて動けていると思います。
一方で、インプットすべき情報量が極端に少なかったり、誤った情報をうのみにしたりする学生は、就活に苦戦している気がします。特にコロナ禍の影響もあって、インターネット検索やSNSで得られる情報のみに頼ってしまう学生が増えていると感じています。
そこで本校のキャリアセンターでは、就活の際、学生に新聞を読むように勧めています。学生の目に入りやすい場所に置いているんですよ。
拓殖大学のキャリアセンターでは紙の新聞の購読を推奨している
就活経験者の7割が読んでいる!就活に新聞が役立つ理由
就活中に新聞を読むメリットは4つ
ーー就職活動中に学生が新聞を読むメリットとは、ずばり何だと思われますか?
新聞を読むメリットとしては、主に次の4つが挙げられると思います。
・幅広い知識を身につけられる
・さまざまな業界への理解が深まる
・情報が頭の中で整理しやすく、記憶の助けになる
・語彙(ごい)が増え、表現力が磨かれる
働きたい会社を見つける上で、特定の企業や業界への理解を深められる点は新聞の大きなメリットだと言えます。今まで関心がなかった業界を知ることで、自分の興味・関心の幅を広げられます。
学生の就活でよくあるのが、知名度の高い大企業ばかりにエントリーするケースです。もちろん、このこと自体が悪いわけではありませんが、「有名だから」「給料が他よりも高いから」といった表面的な理由だけで入社した場合、やりがいやモチベーションを持続させるのが難しくなる可能性があります。
さまざまな業界の動向をはじめ、幅広い情報を収集できる新聞を読むことは、就活のスタート地点です。新聞を読むことで、自分の将来のイメージを固める一助にできます。
業界の動向を知ると、近い将来伸びそうな企業を見通すことができます。「この会社に入社したい!」という企業を、知名度に関係なく自ら見つけ出すこともできます。
その業界や企業の背景を学んだ上で入社意欲を高めると、志望動機も自分の言葉で具体的に表現できるようになります。きっと他の学生よりも熱い気持ちを乗せてアピールできるでしょう。
就活生の77%が新聞を読んでいる
来田さんのインタビューに先立ち、就活を経験したことのある社会人363人にアンケートを実施しました。このうち、就活中に新聞を購読していたと答えた人は77.1%。就活中に新聞をどのように活用していたか、具体的な声を紹介します。
・社会人になって活躍できるよう、幅広い知識や見識を身につけた
・志望する業界や企業を決められるよう、さまざまな業界の記事を読んだ
・面接やグループディスカッションで話題を広げられるよう、その企業や業界に関するニュースを把握した
・文章力を高められるよう、正しい日本語や文章の組み立て方を学んだ
新聞の効果的な読み方。まずは見出しを眺めることから
ーー再び来田さんに伺います。学生に新聞購読を勧める際、紙とデジタル版どちらを推奨していますか?
なるべく紙の新聞を読むように勧めています。
紙の新聞は、記事の流れやレイアウトが一目で把握しやすいため、情報の整理や理解がしやすいという利点があります。気になった記事を切り取ってストックできるのも良いですね。
実際に手に取りながら読むと、集中力が高まるので、記憶が定着しやすくなります。
ーー具体的に、どのように新聞を読むようにアドバイスしているのでしょうか。
いきなり全ての記事を読み込むのではなく、5分から15分ほどの短い時間でいいので新聞を毎日読む習慣を身につけるようアドバイスしています。まずは1面から眺めるように伝えています。記事の見出しとリード(1段落目)に目を通して、記事の内容をつかむようにすると、短時間で新聞を読めるようになります。
新聞の1面には、国内に限らず世界全体で起きている主要なニュースが載っているので、毎日目を通すだけで世の中の動きに敏感になれます。
学生との面談では「最近気になったニュースはある?このニュース知ってる?」と、時事ニュースを確認するようにしているんです。新聞に興味がない学生は結構いるのですが、これが意外と盛り上がります。
新聞は学生とのコミュニケーション・ツールにもなっていると思います。
キャリアセンターを活用して自分らしい生き方を見つけよう
今回は、学生の就活支援のプロである来田さんに、キャリアセンターの使い方をや就活を成功させる秘けつについて詳しく聞きました。
キャリアセンターは、学生が進路で悩んだ時の「駆け込み寺」のような存在と語る来田さん。初めてでも安心して利用でき、学内でしか得られない就職情報やサポートを受けられます。
就活を成功させ、自分らしい生き方を見つけるためには、情報収集力を磨くことが鍵を握ります。
特に新聞を読むことは、志望する業界や企業への理解を深められると来田さん。
もし自分の将来について少しでも悩むようなことがあれば、まずはキャリアセンターに足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと、自分が気づいていなかった新しい視点でのアドバイスをもらえるはずです。
来田健(きだ・たけし)さん
拓殖大学就職キャリアセンター副センター長兼就職部長/全国私立大学就職指導研究会会長
17年半の企業経験(営業、企画)を経て、2006年拓殖大学に転職。18年に就職部長に就任。
<調査概要>
【調査手法】インターネットアンケート
【調査対象】現役大学生や社会人ら就職活動経験のある18〜65歳を対象にしたアンケート
【調査期間】2023年6月
【回答者数】363人
2023年8月9日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです