インターネットやSNSの普及により、豊富な情報に簡単にアクセスできる機会が増えました。しかし、すべての情報が信頼できるわけではなく、フェイクニュースや誤情報が広まることもしばしばです。このような状況の中で、情報の真偽を見極める力は、ますます重要になっています。
そこで注目されているのがメディア情報リテラシーです。メディア情報リテラシーを身につけることで、情報の真偽を見極められるだけでなく、日々の生活やビジネスでも役立ちます。
日本メディアリテラシー協会の代表理事である寺島絵里花さんに、メディア情報リテラシーの概念やその重要性について話を聞きました。
「これからの時代、メディア情報リテラシーは若手社会人や大学生にとって特に身につけるべきスキルだ」と語る寺島さん。効果的な身につけ方についてもアドバイスをもらいました。
日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん
目次
メディア情報リテラシーとは、信頼できる情報を見極めて活用する力
――まずはリテラシーの定義について教えてください。
最近は、ニュースリテラシーやSNSリテラシー、ITリテラシー、マネーリテラシーなど、さまざまなリテラシーを耳にすることが多いですよね。しかし、リテラシーの意味を正しく理解している人は少ないと感じます。
そもそもリテラシーという言葉は、英語の”literacy”で、「読んで理解する力」と「文章を書いて伝える力」を意味するものです。
――メディア情報リテラシーとはどのようなものを指すのでしょうか?
メディア情報リテラシーは「コンテンツの意図を読み解き、情報を適切に活用する力」のことです。ユネスコでは、メディアリテラシーと情報リテラシーを統合したものと定義されており、関連するリテラシーの概念も包含しています。
参照:「Media and Information Literacy: Policy and Strategy Guidelines」UNESCO
メディアリテラシー=メディアの情報を批判的に読み解く力
メディアリテラシーとは、メディアコンテンツから得た情報を批判的に読み解く力です。具体的には、新聞やSNS、ウェブサイトなどのメディアから得た情報を客観的に分析し、自分の思考で処理し、適切に取り扱う力を指します。
そのためには、作り手の意図を理解することがカギとなります。意図を把握することで、コンテンツの目的や背景をより深く読み取れるようになり、情報を客観的かつ論理的に判断できます。
情報リテラシー=情報を収集・ 評価・適切に活用する力
情報リテラシーは、情報を収集、 評価、適切に活用する力のことです。
具体的には、信ぴょう性の高い情報はどれかを判断する、データを分析する、適切な文脈で使用するといったスキルがあげられます。
SNSやインターネット上の情報が本当に信頼できるかを判断し、自分の生活や仕事にどう取り入れるかを考えるには、メディアリテラシーと情報リテラシーの両方、つまりメディア情報リテラシーが必要になってきます。
フェイクニュースやディープフェイクに惑わされないために
――メディア情報リテラシーはなぜ注目されているのでしょうか?
インターネットが普及した現代、情報の信ぴょう性を判断しにくくなっています。特に、SNSでは誰でもコンテンツを作成できるので、受け手側のリテラシーが問われます。中には、信頼できるように見せかける人や、他人の情報を不正に使用する人もいます。そこでメディア情報リテラシーが必要になるのです。
情報の信ぴょう性を正しく判断できなければ、 自分が誤った情報の拡散に加担するかもしれません。国内でもファクトチェック団体が登場しているものの、フェイクニュースを検知する技術や法整備に関しては、まだ追いついていないのが現状です。
誤情報やデマ、フェイクニュースやディープフェイクを見分けるには、情報を客観的に分析することが重要だと考えています。
情報リテラシーは論文・レポート作成、ビジネスに生きる
信頼できる情報を集めると論文や企画書の質が上がる
――大学生や若手社会人がメディア情報リテラシーを身につけるべき理由はありますか?
1つ目は質の高い論文やレポート、企画書を書ける可能性が高まることです。学術的な研究では、適切な情報を引用・活用する力が必要です。
メディア情報リテラシーを身につけることで、情報の正確性を評価し、バイアス(偏り)の有無を見抜く「クリティカルシンキング(批判的思考)」の力が向上します。
例えば、インターネット上の情報をそのまま使用するのと、図書館で昔の文献を調査して書くものだと、情報の信ぴょう性に大きな違いが生じるでしょう。確実な情報を根拠にすることは、自身の研究や提案がより評価されることにつながります。
ビジネスで求められる分析力が身につく
情報があふれる現代で、自分に必要なものを見つけるには、膨大なデータを整理し、正しく理解する力が求められます。そこで必要となるのが、分析力です。メディア情報リテラシーを身につけると、情報を効果的に分析し、洞察を深めることが可能になります。
とりわけ今後のビジネスでは、トレンドやデータを分析するスキルがますます重要となります。戦略的な計画を立てられる人が、会社でも重宝されるようになっていくでしょう。
また、メディア情報リテラシーを身につけることで、日々の小さな選択からビジネス判断まで、より的確な意思決定が可能になります。信ぴょう性の高い情報に基づいた意思決定は、「これだけ調べたし、これだけデータを集めたから、確信が持てる」と自信にもつながります。
社会人・企業人としての炎上リスクを軽減できる
さらに、インターネット上で炎上するリスクを軽減できる点も理由の1つにあげられますね。例えば、企業が公式SNSで発信したデータの信ぴょう性が低いと、誤りを指摘されることがあります。そこから炎上につながり、企業のブランド価値を棄損する可能性もあります。
情報リテラシーを身につけると、発信者・表現者としての能力も高まります。多様な情報源から情報を収集することで、さまざまな視点から分析できるようになり、より多くの人にアピールできる質の高いコンテンツを作成できます。
メディア情報リテラシーを高める方法は、信頼性の高い情報に触れること
――メディア情報リテラシーはどのように高めれば良いでしょうか?
複数のメディアから情報を得る、情報を検証する習慣をつける、最新技術を活用するといった方法があげられます。
複数のメディアから情報を得る
私たちが受け取っている情報は、自分の過去の行動に基づいてカスタマイズされていることを理解することが重要です。インターネットの検索結果や、YouTube、Instagram、Xなどの情報も同様です。そのため、一人ひとり見ている情報が異なり、それぞれが狭い範囲の情報しか見ていないことになります。
情報の偏りを防ぐには、さまざまなメディアから情報を集めて比較すると良いでしょう。私は、病院や美容院、飛行機や新幹線で雑誌を読む時、あえて普段手に取らないような雑誌を選ぶようにしています。そうすると自分の知らない情報を入手できるんです。
また、新聞を読むのもおすすめです。新聞には政治や経済、暮らしなど、社会全般のあらゆる情報が掲載されています。新聞を通して多くの情報に触れるのは、偏りを防ぐうえで重要です。多様な視点の意見が載っているため、自分の考えを広げるきっかけになります。
自分の知らない世界の情報を「つまらない」と捉えるのではなく、興味を持って楽しみたいですね。
複数の情報源から情報を収集・比較するのは、ビジネスでも役立ちます。例えば、商談前に相手先に関する情報を調べますよね。その時にインターネットで簡単に手に入る情報だけでなく、新聞や雑誌にも触れてみましょう。商談相手が日頃読んでいそうなメディアにも接し、その情報を話題にすることで信頼につながるケースがありますよ。このような情報の取り方は若手社員にもおすすめです。
情報を検証する習慣をつける
――情報を得る際に注意すべきポイントはありますか?
情報を得る際は、発信元が信頼できるかどうかを検証してほしいです。
まずは、情報源を特定し、信ぴょう性を判断します。「発信元はどのメディアなのか」「スポンサーはどこか」などを確認し、専門家や公的機関、歴史のある報道機関などであれば信頼できる情報だと考えられます。
次に、情報の更新日を確認することが大切です。更新日が最新であれば、現在の状況をより正確に反映している可能性が高いと言えます。一方、長期間更新がされていないメディアは、情報の信頼性も疑わしくなります。
さらに「なぜこのコンテンツが作られているのか」「なぜこの情報が流れてくるのか」と、情報の意図を推測するようにしましょう。例えば、企業が提供するコンテンツのほとんどは広告です。広告は、商品やサービスを訴求するために作成されています。そのため、商品のメリットのみが強調されている、デメリットに適切に触れていないなど、消費者を誘導する内容になっています。
最新のデジタル技術を活用する
最新のデジタル技術を積極的に取り入れると、情報収集力や分析力が向上します。
例えば、Google Scholarという無料検索サービスを使えば世界中の論文を調べられて、各論文の被引用数まで確認できます。引用される数が多いほど注目されていて、信用度が高い論文は、信頼できる情報として参考になります。
社会人になると、ビジネスツールを使う機会が増えるでしょう。「まず使ってみる」ことが大切。その上でツールから導き出された情報が正しいのかどうかを自分なりに解釈してほしいです。
また、トライ・アンド・エラーを繰り返すことで振り返りと改善ができ、仕事の質が向上します。ぜひ、いろいろなツールを積極的に利用してリテラシーを高めてほしいです。
メディア情報リテラシーを身につける上で役立つ新聞
――メディア情報リテラシーを向上させる上で、新聞は効果的ですか?
新聞はメディア情報リテラシーを身につけるのに効果的です。主な理由は2つです。
厳密にファクトチェックされた情報が得られる
新聞は記事を出すまでに、しっかりと校閲・ファクトチェックがされていますよね。何人もの記者や校閲のプロが責任をもって制作に携わっています。
もちろん記者が間違える可能性もあるとは思います。でも、新聞ほどファクトチェックにコストをかけているメディアはほぼないので、相対的に情報の信頼性が高いことは間違いないと思います。
客観的な事実よりも、感情や個人的な信条に訴えかける情報の方がより大きな影響力を持つような状況を「ポスト真実(post-truth)」と言い、2016年の米大統領選挙では大きな問題となりました。SNS上にあふれる根拠の無い情報に惑わされないためにも、きちんとファクトチェックした情報を伝えているメディアに触れることが重要です。
幅広い分野の情報が掲載されており、多様な視点を得られる
新聞には身近なニュースから、政治・経済などの分析に至るまで幅広い記事が掲載されており、自分が興味関心のない分野の情報にも触れられます。パーソナライズされた情報があふれる現代において、大きなメリットだと言えるでしょう。
今あなたが好きなものを想像してみてください。出合いのきっかけは偶然ではありませんか。自分の興味関心がある情報だけに囲まれるということは、将来自分が好きになるかもしれないものとの接点が失われることでもあるんです。
例えば、好きなYouTuberの動画しか見ない場合、得られる情報が限定されてしまいます。反対意見を持つ人の考えに触れる機会がほとんどなくなり、そのYouTuberの発信する情報がすべて正しいと認識してしまうケースもあるでしょう。しかし、新聞を読むと自分の興味がある情報以外にも出合え、自分にはない見方や意見を知ることができます。
YoutubeやSNSなどでよく「マスコミが報じない重大な真実」を発信している人がいますが、本当にそれは真実でしょうか。その人が信じていること、あるいは信じたいことを裏付けなしに発信しているだけではありませんか。もっと単純に、そうした発信方法をした方が「稼げる」からという側面もあるでしょう。情報の質よりも人々の関心や注目を集めた方が利益につながる状況は、経済学において「アテンションエコノミー」と呼ばれており、負の側面が問題視されています。
新聞の効果的な読み方とは?
――メディア情報リテラシーを高められる新聞の読み方を教えてください。
複数の新聞を比較し、分析・要約を意識して読んでみましょう。
複数の新聞を比較する
新聞は社によってニュースの切り取り方や主張が異なります。まずはその傾向を知ることが大切です。物事には多面性があるもので、視点によって見え方が異なります。
100%正しい真実というのは中々ありませんが、複数の新聞を比較することで、より実相に近づくことができるはずです。大学生や若手社会人だと、紙の新聞より新聞社が提供しているネットニュースを読むことが多いかもしれません。複数の新聞社のサイトでトップニュースを読み比べると、論調や写真の選び方の違いなど、それぞれの特色を把握できます。
新聞を読んだ大学生・若手社会人の声を紹介
ここまで、寺島さんに新聞の活用法について話を聞いてきました。ここからは大学生や若手社会人の方々に新聞の試し読みを体験してもらい、読んでみて意外だったこと、新聞ならではのメリットなどについて語ってもらいました。
見出しや図解から情報を効率良く得られるのでタイパが良い
――実際に新聞を読んでみていかがでしたか?
記事のボリュームや配置で、トピックの社会的な重要度や関心度を理解できました。また、見出しや1面を見ただけで、何を取り上げているのかすばやく把握できるためタイパ(時間対効果)が良いと感じました。
新聞を読むと、話題になっていたり注目されていたりするニュースを網羅的に把握できました。 ページごとに異なる分野を扱っているので、自分の興味のある分野を重点的に見られるのも良かったですね。さらに、新聞は縦書きで読みやすく、疲れにくいと感じました。
新聞を読むと、幅広い情報を網羅的に入手できるため、自分の知らなかった情報に触れるきっかけになりました。活字で埋めつくされたイメージがある新聞ですが、実際には表や画像、図解が豊富で理解しやすかったです。忙しい社会人には効率的で良いですね。
新聞はエンタメから政治や経済まで幅広い情報を扱っていて、見出しを読むだけで必要な情報を簡単に得られました。
意外だったのは、記事がとても読みやすいことです。新聞は一文一文がとてもわかりやすく書かれていて、文章を学ぶ上でも役立つと感じました。
普段なら見逃しそうなニュースに出合えた/SNSで話題になっていることも載っていた
――気になった記事はありましたか?
個人的に気になったのは、企業の情報漏えいに関する記事ですね。VPNを利用したセキュリティー攻撃により、関連会社の機密情報が漏えいしたとの内容でした。
情報が漏洩した可能性のある企業名が、初日の報道では一部のみだったところ、翌日には40社ほど明確に掲載されていました。断片的に取り上げられやすいネットニュースとは異なり、新聞では続報や情報のアップデートが行われている点に驚きました。また報道のスピード感も印象的でした。
就活をする中で、企業が求める人物像に自分が合わせるべきか悩んでいたところ、ちょうどその問題が新聞で取り上げられていました。新聞には「企業が求める人物像のどこに自分が当てはまるかを考えること。企業の価値観が自分に合っているかを重視するべき」といった内容が書かれており、これを読んで自分の価値観が明確になりました。
また、地方空港を中心に航空燃料が不足しているという記事を読みました。ネットニュースなら見逃してしまう話題ですが、グラフ付きの解説がとてもわかりやすく、問題の深刻さを理解できました。環境問題への関心が高まり、興味の幅が広がったと感じています。
首長選に関する記事を興味深く読みました。普段インターネット以外のメディアをあまり利用しないので、立候補者が訴える政策を知る機会がありませんでした。自分の生活に影響する情報だけれども、自ら関心をもって情報を取りにいくことはなかったので、新聞からそういった情報を得られるのは大きなメリットでした。
「大人のリカ活」という見出しのリカちゃん人形に関する記事がとても面白かったです。SNSで話題になっていることが新聞でも取り上げられるんだと驚きました。記事では、コロナ禍での自粛や晩婚化が進む中で、自分の時間を充実させる手段として、大人のリカ活が流行したと考察されていました。このように深堀りした考察を読めるのは、新聞ならではの面白さだと思いました。
信頼できる新聞の情報は論文作成やクライアントへの提案に活用しやすい
――SNSや他メディアと比較した際の新聞の特徴や活用法を教えてください。
信頼性のある最新データを取得できるメディアは少ないと感じています。しかし、新聞は事実確認が取れた、鮮度の高い情報を提供しているので信頼性が高いですよね。
また、新聞には有識者による記事もあり、専門性がある点も信頼できる理由だと思います。信頼性のある最新のデータは、例えば論文作成でも有効に活用できると感じました。
新聞は1つのテーマや事件についてさまざまな視点の意見を取り入れて報じているため、信頼性が高いと感じますね。また、引用ルールを守りやすいので参考文献として利用でき、論文の執筆にも役立つと感じました。
新聞は、記者が現地で確認した情報が複数のチェック工程を経て記事になっているため、信頼性の高い情報だと思います。
新聞から得られる情報は精度が高いので、ビジネスの場でも使えますよね。例えば、クライアントに提案する際に、政府の補助金制度に関する記事を読んでおくと「政府はこの分野に力を入れているので、ここにもっと注力すべき」といったように、具体的な提案につなげられると思いました。
新聞はインターネットに比べて詳細に書かれており、得られる情報量が豊富なため、信頼できると感じています。
また、新聞を読むことで、社会情勢を踏まえた長期的な視野を持てると思います。例えば、プレゼンや企画書作成でも説得力のある提案ができるようになると感じました。
メディア情報リテラシーを身につけて、生活やビジネスに役立てよう
メディア情報リテラシーの概念や重要性について、日本メディアリテラシー協会の代表理事である寺島絵里花さんに話を聞きました。
メディア情報リテラシーは、メディアから提供される情報を理解し、適切に活用できる力です。メディア情報リテラシーを高めるには、複数のメディアから情報を収集し、情報の信ぴょう性を検証することが重要です。
積極的にメディア情報リテラシーを身につけ、スキルを高めていきましょう。
一般社団法人日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん
東京都出身。子どもや保護者のメディア情報リテラシーの意識向上に情熱を注ぐ。学術的な知識と母としての実体験を併せ持ち、メディア情報リテラシー教育の啓蒙活動をしている。行政、企業、親、学生を対象とした講演、研修などを行っている(過去5年間で500回以上、8万人の参加者)。
2024年7月25日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです