
SNSや動画共有サイトの普及により、有権者の投票行動にも変化が生まれています。ネット上で目にする情報が、候補者や政党の印象を大きく左右することも少なくありません。情報があふれる現代においては、どの情報を信じ、どう判断するかが問われています。この記事では、日本ファクトチェックセンター(JFC)編集長を務めるジャーナリストの古田大輔さんに「ネット時代における選挙情報との向き合い方」について聞きました。誤情報や偽情報が拡散しやすい現在の情報環境の中で、どのように情報の信頼性を判断するべきかを解説します。
目次
選挙の投票先、みんなは何を見て決めている?|独自アンケートから
私たちが投票先を選ぶ際に参考にする情報源は、時代とともに多様化しています。かつては新聞やテレビが中心でしたが、近年はSNSや動画共有サイトといったネット上のメディアも大きな影響力を持つようになっています。情報の多様化が進む中で、有権者はどのようなメディアを信頼し、どのような視点から投票先を選んでいるのでしょうか。
はじめに、投票の参考にした情報源に関するアンケートの結果を基に、投票行動の傾向を見ていきます。
24年衆院選で参考にしたメディア|1位テレビ、2位公報・ポスター、3位新聞
2024年10月の衆院選で投票した有権者を対象に、投票先(政党や候補者)を決める際に参考にした情報源について独自のアンケートを実施しました。
参考にした情報源は、テレビのニュース番組(44.7%)、選挙公報・選挙ポスター(40.0%)、新聞(30.2%)が上位に挙がりました。
24年衆院選で最も信頼できたメディア|1位公報・ポスター、2位テレビ、3位新聞
「最も信頼できる情報源」として最も多く挙げられたのは、選挙公報・選挙ポスターで21.4%でした。これに続くのが、テレビのニュース番組(14.9%)、新聞(13.0%)でした。
選挙公報・選挙ポスターや新聞を選んだ人にその理由を聞くと、「情報が正確だと感じたから」との答えが目立ちます。また、テレビのニュース番組を選んだ人の多くは「分かりやすく、理解しやすかったから」「普段から見慣れているから」と答えています。こうした声から、有権者が選挙情報を取捨選択する際に重視しているのは、情報の信頼性や分かりやすさであることが浮かび上がります。
情報源と投票行動の関係――SNSやYouTubeのメリット・デメリット
ここからは、投票行動と情報源の関係性について、ファクトチェックに詳しいジャーナリストの古田大輔さんに話をお聞きします。

日本ファクトチェックセンター 編集長 古田大輔さん
まずは、2024年の兵庫県知事選について振り返ります。この選挙で再選した斎藤元彦知事は、地元新聞社などが実施した事前の情勢調査では劣勢と報じられていました。選挙後の分析では、SNSや動画プラットフォームで拡散されている情報を信じて投票した人が多かったことが、斎藤氏が「逆転」できた要因の一つだとみられています。
実際、NHKの出口調査(※)では、「SNSや動画サイトを参考にした」と答えた有権者の割合が、新聞、テレビという伝統メディアを上回る結果となり、情報環境の変化が投票行動に与える影響の大きさを浮き彫りにしました。
※【開票結果】兵庫県知事選挙 失職の斎藤元彦 前知事が2回目の当選果たす | NHK | 選挙
一方、ネット上で拡散される情報には誤りや意図的な誘導を狙ったものも混ざっており、その見極めが大切だとされています。自らの投票行動を決めるうえで、ネット情報の情報に触れる際は何に気をつけたらよいのでしょうか。
ーー SNSや動画プラットフォームなど、ネット上の情報が投票行動に与える影響について、古田さんはどのように見ていますか。
SNSや動画プラットフォームが投票行動に影響を及ぼしていることは、過去のいくつかの選挙結果からうかがえます。例えば、2022年の参院選で当選したガーシー(東谷義和)氏は、動画を活用してメッセージを発信することで、有権者の判断に一定の影響を及ぼしていたと考えられます。
そうした中でも、2024年の兵庫県知事選はネットの影響力がこれまで以上に可視化された選挙だったと言えるでしょう。候補者の印象や評価が、SNSやYouTubeといったネット上の発信を通じて直接かつ広範に形成され、それがそのまま投票行動に結びつく傾向が顕著でした。
ーー 普段接しているメディアが、投票先の判断にどのように影響を与えていると感じますか。
SNSや動画共有サイトなどのデジタルプラットフォームは、今や若年層だけのものではありません。実際には、60代や70代といった高齢層も含め、幅広い世代が情報収集の手段として日常的に活用しています。私の周りでも、新聞を購読している人は少なくなり、多くの人がYouTubeやSNSから情報を得ています。
こうした状況を踏まえると、普段接するメディアが、そのまま投票先を判断する際の土台になってきたと考えられます。どのメディアに慣れ親しんでいるかによって、候補者や政策に対する理解のされ方も変わり、結果として投票行動にも違いが出てくるのではないでしょうか。
SNSの選挙情報に好意的な意見「知りたい情報あった」38%|独自アンケートから
ネットを通じて選挙情報を得ることに対し、有権者はどのような印象を持っているのでしょうか。2024年10月の衆院選で投票した有権者へのアンケート結果を見ていきましょう。
SNSやネットで見た選挙情報について、「知りたい情報があった(38.2%)」「候補者や政党の主張が良く分かった(35.3%)」と答えた人の割合は、どちらも3分の1を超えています。
SNSの選挙情報に否定的な意見「陰謀論やデマもあった」34%|独自アンケートから
一方、「怒りをあおるような感情的な内容が含まれていた(30.6%)」「陰謀論やデマが含まれていた(34.0%)」など、否定的な印象を持った人がそれぞれ約3割いました。また、SNSやネットの選挙情報について、次のような声もありました。
- 何が正しい情報なのかわからない(30代 / 男性)
- ネットには事実と意見が混在しており、何が本当なのか見分けるのが難しい。偏った意見が世論に影響を与えるのは危険だと思う(40代 / 女性)
- 投稿動画などは主観的で偏りがあるものが多いが、ネット検索で報道機関の情報にたどり着けば、投票先を考える手がかりになる(50代 / 男性)
- 候補者の主張も含め、信頼性に欠ける情報が多い印象。だからネットの情報はあえて見ないようにしている(50代 / 女性)
このように、ネット情報の利便性が評価される一方で、正確さや中立性に対して疑問を抱く人も多いようです。
SNSのアルゴリズム 価値基準は信頼性ではなく人気
ネット上の情報に触れる際に意識すべきポイントについて、引き続き古田さんに話を聞きます。
ーー普段触れているメディアが選挙の判断材料になるとのことですが、SNSやネットニュースなどで選挙情報を集める際、特に注意すべき情報の特徴やパターンがあれば教えてください。
まず前提として、世の中には誤情報や偽情報といった正しくない情報も多いということを認識する必要があります。誤情報とは「意図的ではないけれども間違っている情報」を指します。例えば、どんなニュースでも、正確に伝えようとしていてもミスが出てしまうことがありますよね。それがいわゆる「誤報」と呼ばれるものです。
一方で、偽情報とは最初から人々を誤解させることを狙って「意図的に作り出した事実ではない情報」です。つまり、発信の段階で悪意が含まれているという点で、誤情報とは根本的に異なります。ネット上には悪意あるコンテンツも存在しているため、情報に対して慎重に向き合う姿勢が大切になってきます。
選挙に関する偽情報拡散が加速
特に選挙情報については注意が必要です。選挙に関する誤情報や偽情報は、以前はアメリカの事例として語られることが多く、日本では少ないとされてきました。しかし、実際には以前から拡散しており、近年は状況が加速的にひどくなっています。
特に2024年以降は選挙関連の動画がよく見られるようになりました。視聴数が伸びると、それに乗じて同じテーマで動画を作る人が増え、投稿が増加していきます。問題は、SNSや動画共有サイトの多くが「信頼性」ではなく「人気」を価値基準として、情報を拡散するアルゴリズムを採用している点です。注目される話題や登場人物を基準に関連コンテンツが次々とレコメンドされ、「拡散が拡散を呼ぶ」構造が生まれます。結果として、信頼性に乏しい情報であっても瞬く間に広まるというリスクが出てきます。
多様な視点に触れる機会が減るフィルターバブルのリスク
さらに、SNSや動画共有サイトでは、ユーザーの興味や傾向に応じて情報が届けられるため、一度見た動画に関連する動画が次々と届きます。結果として自分が関心を持つ話題や似たような意見ばかり届く「フィルターバブル」に閉じ込められやすくなっています。異なる意見や多様な視点に触れる機会が減り、自分にとって都合の良い情報だけに囲まれてしまうのです。
SNSや動画はより便利になっていくので、より多くの人がより多く使うようになります。結果として、情報環境はさらに悪化するでしょう。だからこそ、自分なりの判断軸を持って「これは信頼できる情報かどうか」を立ち止まって考える姿勢を大切にしてほしいと思います。
似た者同士の声が充満するエコーチェンバーのリスク
ーーアルゴリズムによって、人気のある情報や似たような意見が拡散されやすいのですね。「ネットでよく見る=正しい」と感じてしまう背景には、どのような心理があるとお考えですか。
SNSを見ていると、「いいね」数や再生数が多い情報ほど信頼できるように思えるかもしれません。しかし、人気の高さと情報の正確性はまったく別の問題です。
私たちには「多くの人が支持している情報」や「何度も目にする情報」を正しい情報と思い込みがちな認知バイアスがあります。これは年齢や情報リテラシーの高さに関係なく、誰もが持っている性質です。SNSや動画プラットフォームには、気に入った人やチャンネルをフォローする機能があります。自分が好きな人をフォローするため、そのコメント欄にも自分と考えが似ている人が集まります。
結果として、同じような意見ばかりを狭い部屋の中でこだまのように聞く状況に陥ります。先程の「フィルターバブル」に対して、この状況は「エコーチェンバー(反響室)」と呼ばれます。
簡単なファクトチェックで誤情報・偽情報を見抜く
ーーフィルターバブルやエコーチェンバーなど、アルゴリズムによって都合の良い情報だけが届くことには、どのようなリスクがあるとお考えですか。特に選挙時にはどう注意すべきでしょうか。
フィルターバブルやエコーチェンバーが起きやすい環境では、自分と似た意見や価値観の情報ばかりが届くため、認知バイアスが強化されやすくなります。そのため、選挙のように重要な判断が求められる場面では、「自分の見ている情報が偏っていないか」と意識的に問い直す姿勢が欠かせません。
生成AIによる偽画像や偽動画は要注意
特に注意が必要なのが、画像や動画、音声といった視覚的・聴覚的にインパクトのあるコンテンツです。生成AIの進化により、見た目にはリアルでも、実際は作りものというケースも増えています。だからこそ、見た情報をうのみにするのではなく「この動画や投稿はAIで作られたものかもしれない」と疑う視点を持つことが大切です。
自分でできる簡単ファクトチェック|ポイントは三つ
ーーネットには信頼性の高い情報から誤情報・偽情報まで、膨大な情報があふれています。真偽を疑うべき情報はどのように見極めたら良いでしょうか。その判断基準は私たちがSNSを見る際にも生かせますか。
情報過剰・情報氾濫と言える状況下で情報に溺れないためには、「自分なりの情報分析の軸」を持つ必要があります。その手がかりとして、簡単なファクトチェックを自分で習慣にすることをおすすめします。次の三つです。
- 発信者を確認する
- 根拠を確認する
- 関連情報を確認する
一つ目は「発信者を確認すること」です。発信者が誰で、その情報を知りうる立場にあるのかを確認します。全く関係がない人、過去に発信の実績がない人が発信している場合は、情報の正確性を疑った方が良いかもしれません。
二つ目は「根拠を確認すること」です。情報の裏付けとなるデータや証言が示されているかを確認します。ただし、根拠があるように見えても、関係のないデータを都合良く結びつけているケースもあるため、出典までさかのぼってチェックする視点が必要です。
三つ目は「関連情報を確認すること」です。当事者や専門家、関係のある公的機関による情報も調べることで、真偽を見極めやすくなります。直接取材をしている報道機関がどのような発信をしているかも参考になります。
この三つの視点を意識することで、信頼性のある情報なのか、それとも誤情報・偽情報の可能性が高いのかはある程度分かると思います。
ファクトチェックはすべての情報に対して毎回徹底的に行う必要はありません。ただし、この三つの確認だけなら1〜2分で済みます。SNSで情報をシェアする、フォローする、投票するなどの行動を起こす前は、最低でもこれだけは確認するようにした方が良いでしょう。こうしたひと手間が、情報に振り回されないための、そして誤情報・偽情報拡散に加担しないための第一歩になると思います。
投票先どうする?選挙情報の集め方3ステップ
ーー候補者や政党の情報を調べる時、どんな視点や順序で見ていくのが有効でしょうか。特に参考になるメディアや資料はありますか。
「誰に投票すれば良いか分からない」「投票したい人がいない」と感じる場合は、まず次の三つのステップを参考に考えてみてください。
①誰が立候補しているのかを知る
まずは、自分の選挙区にどの候補者が立候補しているのかを把握しましょう。新聞社やテレビ局、選挙情報メディアなどが公開している「候補者一覧サイト」を活用すれば、顔ぶれを効率的に確認できます。
併せて、候補者のホームページにも目を通してみてください。内容が極端に少ない、更新が止まっているといった点から、候補者の熱意や発信力を読み取ることもできます。また、衆院選と参院選は選挙区の候補者と比例代表の候補者がそれぞれいます。どちらの候補者も確認しておきましょう。
②候補者の所属政党、候補者を支援する政党の考え(公約)を知る
次に、候補者が所属する政党、支援を受けている政党の基本方針を確認します。これは「どこに投票するか」だけでなく、「どこには投票しないか」を判断する材料になります。
見るべきポイントは、自分が重視する争点です。自分と完璧に考えが合う、満足がいく候補者は存在しません。税金や社会保障、外交、選択的夫婦別姓、同性婚など、自分が重要だと思う政策を軸に、政党の姿勢を見ていくと判断しやすくなります。
政党の基本政策やマニフェストは、それぞれのホームページや公報で確認できます。働き方や教育などテーマ別に政策を比較しているサイトもあるので参考にしてみてください。「政策+衆院選」などで検索すると、有用な情報に出合えるはずです。
③候補者個人の考え(公約)を知る
最後に、候補者個人がどんな価値観を持ち、どのような活動をしてきたのかを調べましょう。知名度の高い候補者であれば、過去の公約やその達成度、メディアによるインタビュー記事なども参考になります。
ただし、すべての候補者に十分な情報があるとは限りません。選挙ポスターや政見放送の情報だけでは足りない部分もあるため、ネットを活用して情報収集する姿勢が重要です。
ーー 公約を見る時に、ファクトチェックの視点から注意すべき点はありますか。誇張やあいまいな表現を見抜くコツがあれば教えてください。
候補者や政党の発信は、多くの場合、自分たちにとって都合の良い情報が中心です。だからこそ、報道機関が出している記事や第三者の分析など、別の情報にも目を通しましょう。特に注目したいのは「これまでに何をしてきたのか」という実績です。過去の公約がどの程度実現されたかを確認すれば、その人に実行力があるかどうかが見えてきます。
また、公約の内容を見る際にも、先ほど紹介した「発信者」「根拠」「関連情報」という3つの視点でチェックしましょう。誇張や虚偽を見抜きやすくなり、より納得感のある投票判断につながると思います。
ーー 候補者個人と所属政党の主張が食い違っているケースもあります。こうした場合、どう判断するのが良いのでしょうか。
候補者個人と政党の主張が異なるケースは実際によくあります。例えば、政党は「A政策」を推しているのに、候補者は「Bの立場」というように、意見が食い違うことも珍しくありません。
この場合、主張している政策が一貫しているかどうかを見ると良いでしょう。政党方針と候補者の主張に大きなズレがあるなら、今後の政策運営で軸がぶれる可能性も考えられます。自分が優先したい争点について政策がぶれているのであれば、慎重に判断していく必要があると思います。
もちろん、どの争点を重視するかは人それぞれです。すべてに納得できる候補者は存在しません。だからこそ、自分にとって大切な争点を軸に判断していくことが重要です。
最後に、投票後は「なぜこの人に投票したのか」「どうしてこの政党を選んだのか」をメモしておくことをおすすめします。私はスプレッドシートにまとめて管理しています。次の選挙の時に、これまで投票した候補者への満足度を振り返るほか、投票先を判断する際の参考にしています。このように記録を残していくことが、自分の「投票力」を上げていくことにつながると思います。
投票先を考えるために役立つ情報源一覧
選挙に関する情報はさまざまなメディアから得られます。例えば、次のようなものがあります。
ーー それぞれの情報源には、どんな強みと弱みがあるとお考えですか。
まず前提として「絶対的に信頼できる情報源は存在しない」ということを忘れないでください。
候補者本人の演説や政見放送であっても、すべてが事実とは限りません。聞こえの良い言葉が並んでいても、内容に具体性がなかったり、印象操作を狙った表現が使われていたりすることもあります。
候補者の経歴や政策を一覧で掲載する選挙公報は、情報が整理されていて比較しやすい点が強みです。ただし、紙幅に制限があるため、伝えられる内容には限界があります。
つまり、どの情報源にも利点と限界があるということです。一つのメディアに頼るのではなく、それぞれの特徴を理解し、複数の情報を組み合わせて判断することが重要です。
ーー 有権者がバランス良く情報を得るには、どんなメディアの組み合わせがおすすめですか。
まずは、新聞やテレビなど比較的信頼性の高いマスメディアから情報を得るのが良いと思います。ただ、これらのメディアは文字数や放送時間の制限があるため、十分な情報が得られないこともあります。そこで、補完的にウェブサイトやSNSも活用するのが効果的です。
繰り返しになりますが、大切なのは「一つの情報源だけに頼らないこと」です。候補者の発信や報道、SNS、動画共有サイトなど、それぞれの特徴と限界を理解した上で、できるだけ多面的に情報を集めてほしいですね。
CHECK:「この情報って本当かな?」――そう思ったら、新聞社のファクトチェック記事(真偽検証記事)をここから確認してみよう! ※Xアカウント「選挙情報の真偽検証_新聞協会」に遷移します
投票先を考える上で新聞が役立つ理由
ーー 「まずは新聞やテレビなど比較的信頼性の高いメディアから情報収集を」との話がありましたが、新聞の特徴や強みについて教えてください。
紙の新聞のメリットは時間効率の良さ|情報を探す手間なく一覧できる
紙の新聞は専門の編集者によって絞り込まれた情報が効率良く掲載されていて、ネットでいちいち自分で情報を探すよりも素早く情報を一覧できます。情報収集の効率化という点でも新聞は優れているところがあります。例えば、紙の新聞なら20回ほどめくるだけで200本近くの記事が読めます。同じ情報量をネットで得ようとしたら、記事のリンクを200回クリックして、スクロールして、広告を避けながら読まなければいけません。何倍も時間がかかります。
一方で、紙面が狭いために一人ひとりの候補者の情報は少なく、紙面だとネットのようなリンクもないため、不便なところも多いです。
デジタル版は候補者情報の検索、比較に便利
そのため、私はデジタル版も併用することを勧めています。新聞社が運営するニュースサイト(デジタル版)には、長年の蓄積を元に候補者情報がデータベース化されており、検索で見やすく、比較しやすくしているサイトもあり、非常に便利です。
新聞記者には正確な情報をわかりやすく伝える意識が根付いている
ーー 新聞報道の信頼性が高いのはなぜでしょうか。
新聞社には長い歴史と経験があります。取材のノウハウや人的資源は他メディアと比べても圧倒的に充実しています。日頃から政党や政治家らを取材しているため、情報を取得しやすい立場にもあります。つまり、信頼できる情報を得やすい立場にあると言えるでしょう。
新聞社が誤報を流した事例はたくさんあるので、こういうと違和感を持つ人もいるでしょう。しかし、新聞やネットなど多様なメディアを経験してきた私の印象では、もちろん全員ではないものの「正確な情報をわかりやすく伝える」という職業倫理が根付いている人が新聞社には多いです。記事が掲載されるまでには複数人によるチェックが入り、幅広い視点が盛り込まれ、事実確認が強化される点は強みです。
いまはSNSなどで誰でも情報発信できますが、一人で行なっている場合、思い込みやバイアスに陥りやすくなります。情報を社会に発信するまでの体制面や、記者個人に根付いている職業倫理の面から、新聞の信頼性は比較的高いと言え、選挙情報を得る際にも有用だと思います。
新聞で「自分が何を知らないか」を認識|ネット検索で補完
ネットでは情報が多すぎるがゆえに「自分が何を知らないのか」「何を知るべきなのか」が分からず迷子になってしまうこともあります。そこで、まず新聞で全体像を把握し、自分に足りない視点や疑問点を明確にした上でネット検索をすると、効率が上がります。
新聞を読むことで「どのテーマについてもっと知りたいのか」「どこが理解できていないのか」など、自分の傾向・課題が見えてきます。そうして得た気づきを元に、ネット記事を見ると、タイトルを見ただけで読むべき記事が直感的に分かるようになるでしょう。
さらに新聞には、紙媒体だけでなくデジタル版やアプリなどがあります。紙面ビューアーを活用すれば、紙面と同じレイアウトでニュースを読むこともできます。ぜひ取り入れやすい方法で新聞を活用してみてください。新聞とネット、それぞれの特性を理解して併用することで、情報収集の質と効率を高められると思います。
選挙は民主主義社会の基盤|バランスの取れた情報収集で投票先の判断を
今回は、日本ファクトチェックセンター編集長を務めるジャーナリストの古田大輔さんに選挙情報の集め方について聞きました。
誰もが簡単に大量の情報へアクセスできる現代は、私たち一人ひとりが「情報を見極める力」を持つことが重要です。発信者・根拠・関連情報の三つの観点で情報の確度を確かめるファクトチェックを習慣づけることで、誤情報や偽情報に流されにくくなります。
新聞やテレビ、SNS、動画共有サイトなど、投票先を決める際に活用できる情報源は豊富です。それぞれの特性と限界を理解した上で、バランスの取れた情報収集を実践していきましょう。

日本ファクトチェックセンター編集長 古田大輔(ふるた・だいすけ)さん
ジャーナリスト、ファクトチェッカー。2002年に朝日新聞入社、京都総局やアジア総局、シンガポール支局長などを経て、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。その後独立し、20年から2年間、Google News Labティーチングフェロー。22年に日本ファクトチェックセンター編集長に就任。
<アンケート調査の概要>
【調査主体】新聞科学研究所
【調査手法】インターネットアンケート
【調査対象】10〜50代で、2024年10月の衆院選に投票した全国の男女
【調査期間】2025年5月
【回答者数】215人