
「就活生は新聞を読むと良い」と言われますが、具体的なメリットが分からない人も多いはず。就活アドバイザーの才木弓加さん、読売新聞の渡辺嘉久記者に、新聞がなぜ就活に役立つのかを解説してもらいました。理由は三つ。「大学での学びと社会の出来事がつながるから」「職業選択の幅が広がるから」「面接官と共通の知的基盤をを作れるから」。内定を得た大学4年生が就活で実践していた情報収集術も聞きました。(この記事は2024年11月に開いたトークショーを基に構成しました)
話を聞いたのはこの方々!
怪しい情報に要注意!裏付けのある正しい情報を選ぶには
―石丸さんは就活の時、どのように情報収集していましたか?
石丸:デジタル版の新聞を契約していて、ニュースは日々チェックしています。就職活動中は週1回、友人と集まって気になるニュースを共有していました。友人に説明することで頭にインプットしやすくなりました。また、少し難しいニュースでも自分の言葉でかみ砕いて説明することで理解度が高まりました。
情報収集の手段としてX(旧Twitter)も使っていましたが、自分が気になっている企業が「内定を出した」といった情報が流れてきて戸惑いました。真偽は分からないと思いながらも動揺しましたし、モチベーションが下がりもしました。
―才木さん、渡辺さんに伺います。普段の情報収集では、どんなことに気をつければよいのでしょうか。
才木:情報収集の手段は、SNS、インターネット、新聞、書籍、何でも良いと思っています。重要なのは、入手した情報が「裏付けのあるものなのか」という点です。裏付けのある正しい情報を得ることが大切です。
その点、新聞は高い取材力と正確な編集プロセスに基づいて作られています。やはりそのような信頼できる媒体を情報収集のツールとして取り入れることを推奨しています。
真偽を自分で確かめる努力も必要
渡辺:入手した情報が正しいのか、という観点は今、すごく問題になっています。読売新聞社の世論調査結果によると、10~20代の7割近くが情報をSNSやYouTubeで集めているんです。ネット社会では、偏った情報だけが集まってくるフィルターバブルという現象が起きているので、SNSやYouTubeだけに頼るのは非常に危険です。
石丸さんが話していた「自分が関心のある企業がすでに内定を出している」という怪しい情報も、SNSで「企業名 内定」と検索すると同じようなデマがヒットするはずです。別の方法で裏付けを取ることが重要です。例えば、その業界に勤めている先輩に話を聞くことなどが考えられます。
発信元を確認「誰がどんな意図で発信したか」を意識
渡辺:事実の裏付けをどう取るかは、いちばん難しいところです。私が政治部にいた時にやっていたことを例に挙げます。
政治家の取材では、誰かから情報を得たら、次にその情報を否定する情報を探していました。対抗する勢力の人や、違う立場の人から話を聞くのです。誰がどんな意図で発信した情報なのかを深読みし、一つの事象を多角的に見ることで、信頼性のある記事が書けると思っています。
この作業は1人の記者がやっているのではなく、複数人でやっています。それぞれの取材先で得た材料を突き合わせ、情報の精度を高めます。
みなさんが情報収集するときも、発信元は確かめてほしいです。「誰がどんな意図で発信したのか」を意識するために必要なことだと思います。ネットやSNSから得た時事ニュースについても、新聞や民放テレビ、NHKではどのように報じられているか確認してみてください。
ノンフィクションドラマを観るように新聞を楽しむ
才木:大学の授業で学生に新聞を読むよう勧めると、ハードルが高いと言われます。「就活生には新聞」と言われても、今まで読んだことがないと取り入れるのは難しいかもしれません。
私は新聞ってノンフィクションドラマのようなものだと思っています。ノンフィクションドラマは事実に基づいているから人気がありますし、話題になります。新聞も事実を伝えるノンフィクションドラマだと思って読むのはどうでしょうか。
渡辺:「新聞はノンフィクションドラマ」というのはまさにその通りです。記者はノンフィクションドラマの登場人物のように取材しています。
例えば今日(2024年11月29日)の読売新聞朝刊1面に「電子カルテ 病院間共有 マイナ保険証利用 政府来年度から」という記事が載っています。マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を利用する患者の電子カルテ情報を、医療機関同士で共有できるようにする――との政府方針を伝えるニュースです。
この仕組みによって国民や病院にどのようなメリットがあるのか、誰が一番得をするのか、記者がさまざまな観点から考え、取材して書いた記事です。
新聞に書いてあることは、全て皆さんの生活に関係しています。
自分がこの制度や施策の中の登場人物だったら、どのようなメリット・デメリットがあるんだろう――そんな風に考えながら新聞を読むと、皆さんもノンフィクションドラマの主人公の視点でニュースの展開を追えると思います。
実りある就活に新聞が役立つ三つの理由
―就活の時に新聞を読むと、どのようなメリットがあるのでしょうか。
大学での学びと社会の出来事がつながるから
才木:最近の採用動向を見ると、面接で「印象に残ったニュース」を尋ねる企業が増えています。
この質問を通じて企業が知りたいことは「大学での学びと社会の出来事を結び付けて考えることができているか」「問題点を見いだし、改善策を考えることができるか」です。
入社後、仕事の中ではさまざまな課題が出てきます。その時に「この人なら、どう解決していくのか」を面接官は知りたいのです。
まずは、「自分がどういうニュースに興味関心があるのか」を把握しておく必要があります。自分の関心事を知る上で、新聞は重要な情報源だと思います。
面接では、ニュースの感想を伝えるだけでは不十分です。「自分はこういう人間だから、このニュースに関心がある」と答えられるかどうかが問われています。情報収集と自己分析はどちらも大切なのです。
職業選択の幅が広がるから
渡辺:新聞にはたくさんのニュースが載っています。政治、経済、外交、社会問題、さらには文化や教育。料理など暮らしに役立つ情報もあります。
さまざまなジャンルを網羅している新聞には、自分の関心があることが必ず書かれています。今まで気づいていなかった新たな関心事を発見するチャンスがあります。
才木:私も、職業選択の視野を広げるには新聞が必要だと思います。
例えば大学の授業でSDGs(持続可能な開発目標)について学んだ人が、特に貧困問題や労働環境の問題に関心を持ったとしましょう。
SDGsが掲げるゴールは全て、今の世界が抱える課題を解決するために設定されています。新聞を読めば、貧困や労働環境の問題にまつわる記事が、必ず見つかります。
新聞で詳しく学ぶうちに、自分の関心領域に関連した業界や企業についても知識が広がり、やりたい仕事の選択肢が増えます。
面接官と「共通の知的基盤」を作れるから
渡辺:新聞は、面接対策にも役立ちます。
コミュニケーションは相手と同じレベルの情報を持っていないと成立しません。採用面接でも、相手と同じレベルの情報を持ち、話の前提を共有していなければ会話がかみ合わないのです。つまり、面接官と「共通の知的基盤」を作ることが重要です。
実社会で生きる面接官と共通の知的基盤を作る上で有効なのが、新聞の「社説」を読むことです。
社説には、何が今世の中で問題になっているか、これからどうすべきかがコンパクトに整理して書いてあります。ベテラン記者が毎日打ち合わせをして、緻密な分析を基に分かりやすく書いています。
社説を読めば、社会経験を積んだ面接官と共通の知的基盤が作れると思います。
新聞記者お勧めの読み方は見出しのチェック+社説、1面コラムを読むこと
―石丸さん、紙の新聞を試し読みしてみてどうでしたか?
目に入る情報が増えインプット量が格段にアップ
石丸:普段読んでいるデジタル版の新聞に加えて、このトークショーに合わせて初めて紙の新聞を読みました。
関心がない話題の記事も目に入ってきて面白かったです。記事によって掲載されているサイズが違う、といった発見もありました。
目に入る情報が増えたことで、1日に読む文字の量が格段に増え、相手に分かりやすい文章を作る力や話す力もアップした気がします。
渡辺:新聞を全部読むのは難しいと思いますので、最低限見てほしいのが「見出し」です。
見出しは、記事で伝えたいことを分かりやすく端的に書いてあるので、短時間でニュースの内容をつかむことができます。
それから、先ほどお話しした社説も読んでほしいです。
発想力を身につけたい人には、1面の下に載っているコラムがお勧めです。タイトルは新聞によって異なります。読売新聞は「編集手帳」です。このコラムは新聞社の中で最も文章が上手な人が書いています。
記者が朝の通勤中に見た一輪の朝顔から日本の経済を考える――といった展開で読み手を引きつける、発想力に富んだコラムです。日々読むことで、自分の身の回りのものごとや日常が実は国際情勢に関係している、といったものの見方が身につきますよ。