【茂木健一郎さんに聞く】活躍できる子どもを育てる新聞の活用法(前編)

 脳科学者で、2020年7月に『脳科学者が子どものために考えた夢をかなえる力ののばし方』『クオリアと人工意識』を出版された茂木健一郎さんに、脳科学の視点から子どもの育て方や新聞の活用法などについてインタビューしました。

 

「新聞ネイティブ」 小学生のときから新聞を毎日見ていた

――脳科学の視点で、小学生くらいの年代の子どもの脳はどのような状態なのでしょうか?
  また、小学生の子の教育には何が大切だとお考えですか?

 

小学生の頃は、全ての脳で一生の学びの基礎ができるときです。1年生、2年生と学年を重ねるにつれて、子どもの世界は広がっていきます。

いろいろなことを経験し、好奇心がどんどん広がっていく、とても大事な時期です。そのときに子どもは社会的なことに興味を持つようになってきます。

僕の場合は「新聞ネイティブ」で、小学2年生くらいからは新聞を毎日見ていたのを覚えています。

ニュースペーパー・イン・エデュケーション(NIE)がすごく注目されていますが、それは僕の経験からもすごく大事です。

大人は新聞の文章や文字は子どもには難しいと思いがちですが、子どもは子どもなりに新聞の内容をいろいろ解釈して受け止めるんですよね。

1969年の夏、僕が7歳になる年にアポロ11号が月面着陸しました。新聞の1面に「人類月に立つ」とあったのを鮮明に覚えています。

日中国交正常化や沖縄返還のような時代を画すニュースが新聞の1面トップにバーンと出ているっていうのを僕も子どもの頃に見ていました。新聞を通して世の中の大人たちがどういうことに関心を持っているのかとかを感じとっていたのだと思います。

 

世の中の成り立ちを新聞のレイアウトから知る

今はYahooトピックス(ヤフトピ)を見て、「だいたい芸能人ネタが多いな」とか、「こんなコメントが付いているな」とか、僕もかなりヘビーユーザーでコメントして、ツイートしたりもしてるんだけど、毎朝、新聞を必ず読んでいます

新聞とヤフトピの違う点は、新聞はニュースバリューの判断の仕方が伝統的な芸術になっていることだと思います。新聞には専門の整理部の人たちの価値判断がありますが、ヤフトピは、芸能人のスキャンダルネタでもいきなりトップになったりしますよね。

でもみんなは「世の中の全体のことを考えたら、この芸能人ネタはそんなに重要じゃない」と心の中で言っていると思います。

新聞はニュースの価値判断が良い意味でも悪い意味でも保守的というか、伝統的な価値観があり、見た瞬間に視覚情報が伝わってくる。そこがいい。

新聞の1面トップに載っている情報はかなり重要だと分かる。ヤフトピのトップにあっても、半年後に覚えているかどうか分からないようなニュースが意外と多いですよね。

だから、子どもが世の中の成り立ちを知るには、新聞のレイアウトって実はすごく大切です。

ただ、残念なことに、僕の周りの10代・20代に聞くと新聞読んでいない人が多くてもったいないと思っているんですよ。

僕は新聞を読むのが当たり前の世代だし、新聞を読まないという意味が分からない。ニュースをデジタルで読むのなら、新聞も読めばいいじゃないって思うんだけどね。

 

ずっと読んでいたから学力が高くなった

――小学2年で新聞を読むのは難しくなかったですか?

 

全然そんなことはないよ。人類月に降り立つみたいなのって覚えてますし。意外に読めるんですよ。自分の子どもの能力を見くびっちゃいけない。

逆に小学生のときに新聞を読むことにチャレンジしないと、大人になっても新聞を読むのが難しいと感じるようになっちゃう可能性がある。

社会人は新聞くらい読んでないといけないという意識が、僕にはある。

僕は小学2年くらいでは新聞を読んでいましたが、世間的には、「お前は特殊なんだろう」と、少し学力が高めの人に見えたりするじゃないですか。

それは逆ですよ。学力が高かったから新聞を読めたんじゃなくて、新聞を小学生のときから読んでいたから、学力が高くなったんですよ。

――子どもの脳を発達させるために、親は新聞をどう活用したらいいでしょうか?

 

やっぱり親がまず新聞を読んでいないといけないよね。僕の親やおじいちゃんもやっぱり新聞を読んでいた。親が読んでない家で子どもに「読め」と言ってもしょうがない。親が読んでいると子どもは自然に興味を持つと思う。

あと、小学校高学年になると、学校で社会科のいわゆる公民で内閣の成り立ちや三権分立などを学び始める。

僕はずっと新聞読んでいるから、「すごい簡単なことだな」という認識だったけど、友達には「なにそれ?」みたいな反応の人もいました。

 

新聞を読めば自然にそんな常識が身について、例えば、小学校高学年とか中学生になって、公民分野の話になったときに、理解の幅や深さがぜんぜん違うんですよね。

ニューヨーク・タイムズの紙・アプリ・電子版を合わせて600万人くらい※ですけど、レイアウトで見せているんです。いまは新聞が読まれないと言われているけど、新聞文化が死んでいるわけではなく、読む人は読んでいて、読まない人との差がすごく出ている時代だと思います。

だから、デジタル時代に新聞がなくなるのかと言うとそんなことはなくて、ニューヨーク・タイムズとかフィナンシャル・タイムズとかはちゃんと残っていて、むしろビジネスとしては拡大していますよね。

日本の新聞がどうなるかってことは、新聞の良さを世の中の人がどれくらい認識するかってことによるんだと思います。

 

学力が高い子どもに共通するのは、野次馬精神

――茂木さんのYouTubeチャンネルで「脳を活かす勉強法」を拝見しましたが、小学生ぐらいのお子さんに特におすすめの勉強法はありますか?

 

とにかくたくさんの本、文章を読むことが絶対条件でしょうね。

人工知能になにか言葉を覚えさせようと思ったら、大量に読ませるしかないということが分かっています。自動車メーカーのテスラやスペースX社を率いるイーロン・マスクが作った人工知能のGPT-2には、シェイクスピアの全作品の数千倍のテキストを読ませたそうです。

僕自身も小学生の時にたくさんの本を読みました。小学2年のときに、学校の図書館にあったSF童話を端から端まで50冊くらい全部読んだり、明智小五郎とかシャーロック・ホームズとか、それこそスタンダールの『赤と黒』、『谷間の百合』、トルストイ、そういう世界文学全集系から夏目漱石とか、乱読してたんですよ。

やっぱりそういう知識・経験がないと、国語とか社会のような教科はなかなか難しいです。

科学分野で言うと、小学生のときに講談社のブルーバックス、相対性理論や量子力学などの大学で研究するような内容を読んでいたんですけど、理解できましたよ。アインシュタインとか、無限の概念とか。

いま、親はお子さんの学力上げることにすごく関心があると思いますが、学力が高いと言われている子どもに共通しているのは、野次馬精神を持って自分で先に進んで学んでいることです。

残念ながら文部科学省のカリキュラムでは、「この学年はこれです」ということだけを教えているので、頭のいいお子さんが育たない。そういう意味で言うと、新聞の読書欄とかを読んでいると、いろんなジャンルの本が載っているから、「この本面白そうだな」と思う時間があってもいい

 

興味を持って自分で調べられる子が、成績も良くなる

――「野次馬」というのは、好奇心みたいなものですか?

 

学校の勉強だけに制限しないで、「世の中どうなっているのかな?」という疑問をいろいろ学んでいる子の方が結果として学校の学力も上がっていくんです。

もともと脳って雑多な「栄養」を入れていかないと、知識や理解は深まらないんです。

親は、「学校の勉強をちゃんとやりなさい」と子どもに言うんだけど、学校の勉強だけだと絶対無理です。

いろいろなことを読んだり経験したりして、十のうちの一つが学校というような子どもが、結果としては知的な発達は早いと思います。

それこそ藤井聡太さんが話題で将棋・囲碁が注目されていますが、新聞に、棋戦を取材した将棋・囲碁の欄が必ずあるんですよね。僕も子どもの頃から見ていました。

 

――学校の勉強以外の「雑多な栄養」を取り入れるとしたらどんな種類の学びがあるのでしょうか?

 

僕はチョウの採集を研究していたから、日本鱗翅(りんし)学会というチョウとかガを研究する学会に入って子どもの頃から学会に行っていました。

今だったらプログラミングをやる子もいるだろうし、ロボットを作る子もいるだろうし、あるいはスポーツに打ち込むのもいいです。

例えば、サッカーが好きな子だったら、今のヨーロッパのクラブチームがこうで、最先端のトレーニング理論はこういうものだというふうに興味を持って、調べているお子さんがいてもいいです。

とにかく学校の勉強にとどまらないで、いろいろなことに興味を持ち自分で調べられる子の方が絶対に学校の成績も良くなると思います。

 

●茂木健一郎さんのTwitterアカウント

 

2022年7月14日公開

※記事中の契約者数は取材時(20年7月)の情報です