多様な報道を望む

 河瀬直美(かわせ・なおみ)さん

1969年奈良県出身。カンヌ国際映画祭では97年に「萌の朱雀」で新人監督賞を、2007年に「殯(もがり)の森」で審査員特別大賞を受賞。奈良県を拠点に作品制作を続け、地元の「なら国際映画祭」の監修にもあたる。

多様な報道を望む


 活字を読むと、想像力が試される。人は自然に、書かれている内容に合致する記憶や経験から、自分なりのイメージを作っていくからだ。
 一方、映像は具体的なイメージを示す。私の映画は、観客に自由に想像し、共感してもらうため、あえてセリフなどで説明し過ぎずに「余白」を作るようにしている。


 だが最近、テレビなどの映像メディアでは画面に示す文字が増え、説明し過ぎる。一つの考えを押しつけられるようだ。だから私は、新聞を読むことで世の中の情報を知るようにしている。
 視覚障害者向けの映画の音声ガイドを題材にした作品「光」で描いたが、メディアは情報が多過ぎると、受け取る人からイメージを作る楽しみを奪う。それぞれの人が想像力を働かせ、心の中の物語を大切にすることで、豊かな世界が広がる。


 新型コロナウイルスの感染拡大のように大きなニュースが続くと、各紙とも紙面がそれで埋め尽くされ、似たような記事が増えるのが気になる。不安を払拭する記事を特集したり、この問題にこだわらずに文化に特化したページを作ったりと、各紙が紙面を工夫してほしい。
 私は自分の作品を厳しく批判した海外のジャーナリストとも交流している。書き手が率直に意見を述べ、主張が伝わる記事が読みたい。


 東京五輪の公式映画監督に就任し、選手や関係者の取材を重ねている。人々の心の内を引き出し、単純な「勝った、負けた」だけではなく、記録を超えた物語を紡ぎたい。新聞には読者がそれぞれの物語を楽しめるよう、多様な報道を望みたい。

2020年6月23日公開

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