【井上康生さんに聞く】時代を読む力を育むために新聞を読む

井上康生(いのうえ・こうせい)さん

1978年宮崎県出身。2000年シドニー五輪柔道男子100キロ級金メダル。五輪、世界選手権、全日本選手権の「3冠」を達成。12年ロンドン五輪後に男子日本代表監督に就任し、16年リオデジャネイロ五輪では金メダル2個を含む全7階級でメダルを獲得し、男子柔道を復活へ導いた。


大学時代の恩師の言葉

 

 新聞や本を読み、手で書いて覚える。アナログ人間です、自分は。原点は大学入学時にいただいた恩師の言葉でした。「時代を読む力を育むために新聞を読みなさい」——。活字の重要性を説かれました。
 日本柔道の男子代表監督として時代を読み解き、対応していく中で新聞は大きな役割を担っています。情報を瞬時に得られる点ではインターネットの電子系が勝りますが、物事を俯瞰(ふかん)的に見られて頭に残る点では紙媒体の新聞に軍配が上がります。

 

現役時代とは違う新聞の読み方


 世界が急速なスピードで変化している現在、生き残っていくためには多角的な視点、幅広い視野が必要だと考えています。紙媒体、電子系で異なったニュースが流れたり、同じ現場から発信されながら新聞社によって違うコメントが載ったりする。最終的には自分で判断し、決断しないといけませんが、自分の感覚だけでは危険もある。新聞には根拠のある反対意見など、多様で多角的な考えが詰まっている。褒められてうれしかった現役時代とは違った形で新聞と接しています。

 

柔道男子日本代表監督として臨む東京五輪


 国際大会で日本選手が海外の強敵に勝った際のガッツポーズ、東京五輪代表発表会見で泣いてしまった姿を報じられました。自分をコントロールできない未熟な行動だったと反省していますが、選手たちは人生の全てを懸けています。来年に延期になりましたが五輪開幕へ向け、報道は加熱するでしょう。記事に生きがいを感じる一方で重圧もかかる。取材する側、される側が尊重し合い、敬意を持って取り組むのが、お互いのプロフェッショナル精神。そういう関係性で東京五輪に臨み、一緒に戦っていきたい。

2020年6月2日公開