
脱・情報迷子!インプットの質とタイパを高めてビジネスを前進させる新聞活用術
「情報が多すぎて何を信じていいのか分からない」「効率的に情報をインプットしたいけど、どうすればいい?」「情報を知って終わりではなく、成果を出したい」――そんなビジネスパーソンのための情報収集術を人財プロデューサーの岡崎かつひろさんと、日本経済新聞社の経済部長・加藤修平さんに聞きました。
目次
◇話を聞いたのはこちらの2人
岡崎かつひろさん
人財プロデューサー/株式会社XYZ 代表取締役
1980年生まれ。東京理科大学卒業後、ソフトバンク入社。コールセンターの立ち上げなどを担う。その後独立し、飲食店の組織マネージメントを経て、2017年に「自分を安売りするのは”いますぐ”やめなさい。」(きずな出版)を出版。現在は研修・講演・ビジネス書作家を中心に活動中。
加藤修平さん
日本経済新聞社 編集 経済部長
1976年生まれ。愛知県出身。1998年日本経済新聞社入社。大阪経済部、東京産業部で企業取材を経験し、2004年以降は東京経済部で中央省庁の取材に長く携わった。24年から現職。デジタル編成局に所属した時に日経電子版のプロモーションを担当。手掛けたラジオCMが広告界の賞であるACCファイナリストに選ばれた。 趣味が欲しいと思い、4年前からピアノの練習を続けている。
フェイクニュースにだまされないコツは、ツッコミどころを探すこと
――まず「脱・情報迷子」というテーマで、岡崎さんにビジネスパーソンへのアドバイスをお願いします。
岡崎さん:今は自分で情報を集めようとしなくても、日々たくさんの情報が入ってきます。そうすると何が正しいのか、何を選べばいいのか、分からなくなりがちです。そういった状態が「情報迷子」です。
情報迷子の人は、「クリティカルシンキング(批判的思考)」を身につけることをお勧めします。物事の前提や根拠を客観的な視点から疑い、本質を見抜く思考法です。単に否定するのではなく、本当に正しいのか評価することでより適切な議論を導き出すことを目指す考え方です。ごく簡単に言うと「怪しいところにツッコミを入れる」ということです。
具体的な例で練習してみましょう。
就任6か月の市長が、こんな発言をしました。
「私が就任してから犯罪率が下がり、町の治安が良くなっている。これは私が市長として出した成果です」
一見正しそうな発言ですが、ツッコミどころ満載です。
- 「就任前後の犯罪率は?」
- 「具体的な政策が示されていないので、市長の成果かわからない」
- 「犯罪が表面化しなくなっただけかもしれない」
さまざまな疑問が浮かびます。次はこんな見出しのニュースについて。

各地でクマ出没増加 「メガソーラーによる森林伐採のせい」
この記事にもツッコミを入れてみましょう。
- 「森林伐採の前からクマが出ていたかもしれない」
- 「メガソーラーだけが影響しているわけではないのでは」
いろいろ思いつきますよね。
種明かしをすると、この記事はフェイクニュースです。元の記事は「~この説を有識者に聞いてみた」という内容です。皆さんにツッコミどころを考えてもらうために、私が見出しを切り取って加工しました。
フェイクを見分けるのは、実は結構難しい。だからこそ、情報は信頼できる媒体から入手した方がいいです。
7割超の人がフェイクニュースのうそを見抜けない
岡崎さん:「東京くらしねっと」というウェブサイトにこんなトピックが紹介されています。米国の研究で、フェイクニュースは普通のニュースよりも拡散スピードが早く、拡散範囲も広いことが明らかになりました。10万件以上の X(旧Twitter)の投稿データを分析すると、真実が1500人に到達するまでの時間は、フェイクニュースの6倍だった――という研究結果です。
また、フェイクスニュースの方が真実よりも70%も多く拡散されやすいことも明らかになっています。情報の受け手の関心をどれだけ引きつけられるかを競い合う「アテンションエコノミー」が、経済活動における重要なポイントになってしまっています。SNSでは「正しい」よりも「楽しい」が優先されているのが現状です。
多くの人が、自分はフェイクニュースに自分はだまされないと思っているようですが、フェイクニュースをうそだと見抜けない人の割合は10代から60代まで、どの年代も70%を超えています。SNSは結局、誰が言っているかわかりません。気をつけないと、適当に取った誤情報を自ら共有してしまう可能性もあります。
また、生成AIもあくまで統計データです。「AIの言うことは正しい」というのはとても危険です。
皆さんに覚えてほしい言葉があと二つあります。「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」です。
エコーチェンバーは、自分と似た意見や思想を持った人々の集まりで交流・共感し合うことで、特定の意見や思想が「一般的にも正しい」と信じやすくなる現象です。
気になる情報だけが集まってくる、この現状をフィルターバブルと言います。パソコンについて何回か検索すると、パソコンの広告がどんどん出てきますよね。ユーチューブの視聴履歴からおすすめ動画が際限なく表示されるのも同じです。
視野を広げて正しい情報を取りたいと思ったら一次情報を取る。現場に足を運ぶ。これが最も確実です。ただこれは非常に大変です。新聞や書籍は、情報の裏取りをした上で真実とわかったものについて発信しています。こうした信用度が高いメディアから冷静に情報収集する必要があります。
「ニュースを人に話すこと」が情報収集の精度を高める

――ここからは加藤さん、岡崎さんの2人にお聞きします。加藤さんは、日頃の情報収集で何が大事だとお考えですか。
加藤さん:私が記者になって28年たちます。情報迷子の中で正解を探しながら取材するのが記者の仕事と言えるかもしれません。その中で大切なのはもちろん情報を集めることなのですが、「知った情報を人に話すこと」つまりアウトプットすることが最も大事だと思っています。
自分が聞いてきた話をぜひ、会社の同僚、家族、友達、誰でもいいので話してみてください。もしフェイクニュースをうっかり信じてしまったとしても「昨日こんなニュースを見た」「こんな動画を見た」と人に話すことで、「あれ、それちょっとおかしくない?」と言われて気づくことができます。今の時代、そうやって周りの人にフィードバックをもらって気づきを得ることは全く恥ずかしいことではありません。自分が知った情報を人に話すことを通じて、精度の高い情報収集になると思います。
アウトプットの習慣はチームを強くする
加藤さん:アウトプットすることは、チームで仕事をする上でも意味があります。自分には価値があまり感じられない情報でも、話してみると他のメンバーにとっては価値がある情報だった、ということもあります。アウトプットすることで、お互いがお互いの役に立てるチームになると思います。
岡崎さん:ビジネスパーソンにとって、情報は聞いて終わりではなく、活用してこそ意味があります。そのためにはアウトプットが必要です。アウトプットすることで化学変化が起きますから。
今は本当にフェイクニュースが多いので、見たものをうのみにせず一度考えて、「私はこう思う」「この情報の裏側にはこんなことがあるんじゃないか」と自分の意見を添えてアウトプットするといいと思います。仕事ができるビジネスパーソンは「上司がこう言ったからこうやる」ではなく、上司が言ったことを咀嚼(そしゃく)して動きます。そのトレーニングになりますよ。
もし、社長に日本の針路を聞かれたら?モノを言うのは情報収集の質
――加藤さんは、どのように情報収集をしてきましたか。
加藤さん:経済記者として、企業の経営陣や官庁の幹部に取材する機会がたくさんありました。昔も今も、彼らの多くが新聞という文字ベースのメディアから情報収集しています。
昔、信頼できる媒体から情報を取ることの大切さを感じた出来事がありました。大企業の社長に会いに行った時のことです。設備投資や決算の展望について取材するために訪問したのですが、逆に私が質問攻めに遭いました。日本は今、金利や税金を上げるべきか、下げるべきか。どういう規制緩和をするべきか。その社長は国の政策決定にも携わっている人でした。
このように、取材ではこちらが質問するばかりではなく、相手から自分の考えを聞かれることもあります。知識も経験も豊かな相手の質問に答えられる記者でいるためには、やはり信頼できる情報に触れていなければなりません。取材相手が信頼できる情報に触れているのであれば、なおさら私も触れ続けなければいけない。そう思いました。
効率の良い情報収集はあるようでないです。文字情報からの情報収集は少し大変かもしれませんが、日々筋トレのように頑張って続けてほしいです。
動画と新聞、情報収集のタイパがいいのは…
――ユーチューブなど動画で情報収集する方が簡単な気がします。
加藤さん:新聞1部(1日分)の情報量は新書1冊分とも言われ、膨大な情報が詰め込まれています。メリットは、短い時間でも、自分で情報を取捨選択しながら読めること。新聞を読むことは、極めてタイパのいい情報収集術だと思います。動画は倍速にしても半分の時間でしか見られませんが、新聞は情報収集にかける時間を自分でコントロールできます。
先ほどの岡崎さんの話にもありましたが、エコーチェンバーやフィルターバブルの対極にあるのが新聞です。今日(2025年11月25日)の朝日新聞朝刊に「ゆりかもめ30年 未来都市はいま」という記事が載っています。日本経済新聞には載らない渋い記事だなと思いましたが、ゆりかもめをきっかけに新しい街が誕生し、人々がとても活発に動いていることを伝えています。私が知らない世界でこういう人たちが生き生きと活動していたんだなというのはとても参考になったし、何より記事として面白かったので、お勧めしたい記事です。
新聞には、記者が街に出て、足で稼いできた多彩なネタが載っています。皆さんの関心を引く記事や、気づきを得られる記事もどこかに眠っているので、ぜひ見つけてほしいです。
仕事に役立つ情報だけ取りたい!はNG

――岡崎さんの新聞の読み方を教えてください。
岡崎さん:私は片っ端から読みます。新聞には自分の興味の外にある情報も含めてさまざまな記事が載っています。こんなに幅広く情報が取りやすいメディアはありません。先ほどの加藤さんの話の通り、文字情報は動画と違いいくらでも早く読めます。私は基本的にあまり考えず前から全部読んで、一通り見てから気になる記事はもう1回読んでいます。
ただ、今は読み慣れてない人が多いと思います。私が社会人になりたての時は、新聞を縦に折って満員電車で読むのがかっこよかったんです。私もそうやって読んでいたのですが、今の人は多分そういう経験はないと思います。読み慣れていない人はまず見出しを読んで、気になるところだけ中身も読むのがいいと思います。もし気合いがあって情報を広くしっかり取りたい方には、全部読むことお勧めします。
広い視野を持って、目の前の仕事に集中する
――仕事に役立つ情報だけを取りたい、という場合はどうしたらいいですか。
岡崎さん:ビジネスに役立つかだけで判断すべきじゃないと思います。自分の新たな可能性に出合えなくなるからです。興味がないものも含めて学ぶと、新しくやりたいことが見つかるかもしれないし、全く関係ないと思ったことが自分の仕事に生きることがあります。
スタンフォード大学の教授が提唱した「プランド・ハップンスタンス」という理論があります。成功者と言われるような人たちに「それって元々やりたかったことですか」と聞くと、8割の人が「違う」と言うんです。目の前のことに一生懸命取り組んで成果を出していった先に、次の仕事との出合いがあった、と。
私は元々本を書きたいとは思っていませんでした。ただ仕事を一つ一つ頑張っていたら、本を出版しませんかという話をもらい、気がついたら10 冊も出していました。タイパやコスパを考えるよりも、目の前の仕事でちゃんと結果を出すにはどうしたらいいかを考えるのが先だと思います。
皆さんには広い視野を持ってもらいたいです。いろんな視点や角度から情報を取ることで、目の前にある仕事の精度を上げることができます。今まで言われた通りにやってきた。でも、他の業界はこうやってるということを新聞を通して知った。そのやり方を取り入れてみた。そこで成果が出た。次のステージに行ける。私はこういう構造だと思います。
目標達成に効果的なことだけをやろうと思わず、広く情報を取り、今ある仕事できちんと成果を出すことが重要だと思います。
「現場を見る、話を聞く、調べる、確かめる」を徹底しているのが新聞
――新聞の情報は信頼できる、と言われるのはなぜでしょうか。
加藤さん:「現場を見る」「話を聞く」「調べる」「確かめる」ことを徹底しているからです。記者の仕事は現場に足を運ぶ、人に直接会って話を聞く、当事者を含め複数の人に話を聞くというのが基本です。
先ほどの岡崎さんの「フェイクニュース」を例にすると、記者は「木を切ってソーラーパネルを据えたらクマが出るようになった」という情報を耳にしたら、まずは現場を自分の目で見に行き、地元の人やクマの生態に詳しい専門家に話を聞きます。クマの出没件数の統計などもチェックするでしょう。そうした取材を経て記事を書きます。その後、複数の編集者が厳しくチェックした上で報道されます。
ビジネスに重要な読解力と表現力は、読むことで身につく
――情報収集に役立つほかに、新聞を読むメリットはありますか。
岡崎さん:ビジネスでいちばん重要なのは読解力と、自分の考えをちゃんと発信する話術や執筆力です。つまりインプットとアウトプットです。今、文章を書けない人がすごく多いです。明らかにインプット不足です。SNSで手軽に情報を取っていると、文章の構成を考える力がつきません。いざ自分が書く時に書けないんです。
新聞や本を読んでいると、自然と話術も執筆力も身につきます。私はすごく新聞が役に立ったと感じています。
(この記事は2025年11月に開いたトークショーを基に構成しました)


