【元外交官・佐藤優さんに聞く】新聞は今も情報のベース

ロシアでも日本でも、新聞は重要

新聞はなくならない。私の研究領域であるロシアでも、基本的に社会の指導的な立場の人は、世の中の動きを新聞で理解している。インターネットの世界でも、飛び交う情報のベースは新聞にたどり着くことが多い。ならば元の新聞を読むのが一番いい。発行部数は少なくなるのだろうが、新聞記事のコンテンツとしての需要は、ますます高まっている。

一昔前に比べ、新聞ごとに紙面の構成や内容の差が大きくなっている。社会に多様性が出てきたことの表れであり、(レイアウトや見出しをつける)整理部門の役割はより増している。極端なことを言えば、各紙の1面に知らないニュースがあっても、恥ずかしいことではない。自分の視点や知識の幅を知ることで「こんな見方をすればいいんだ」などと考えられるようになる。

 

新聞のない世界は、極端な階級社会に

「新聞のない世界」は、極端な階級社会になる。ごく一部で情報を共有する人がいて、それ以外の人たちは権力者から流れてくる情報に従わなければならなくなる。非常に閉鎖された社会だ。あるのは口コミの情報ばかりで、「地球が平面だ」と信じるような人が相当数、出てくるような世界になる。権力者の言い分をそのまま受け入れ、すごく受動的な人たちが生まれるだろう。

新聞が一つしかなくなるのも恐ろしい世界だ。「国家は一つだから、新聞も一つでいいじゃないか」というのは、権力者がひそかに望んでいることでもある。日本の新聞は、保守系も、リベラル系も、国にあらがう報道には積極的だ。これだけ多くの新聞社が切磋琢磨(せっさたくま)している世界でも珍しい日本の状況は素晴らしいと思っている。

 

作家、元外務省主任分析官 佐藤優(さとう・まさる)さん

1960年生まれ。東京都出身。85年外務省に入省。情報分析の専門家として旧ソ連・ロシア外交に従事した後、作家に転身。ソ連崩壊について書いた「自壊する帝国」(新潮社、2006年)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。同志社大学客員教授も務める。