多角的な視点の身につけ方を専門家が解説|就活・キャリア形成に役立つメリットも紹介

現代社会では、物事を1面ではなく、さまざまな角度から考えることが重要視されています。この「多角的な視点」を身につけると、就職活動やキャリア形成において、より自分に適した意思決定につながります。

多角的なものの見方を養うと、どのようなメリットがあるのか、どのように身につけるのかを日本メディアリテラシー協会の代表理事・寺島絵里花さんに聞きました。その重要性を探っていきます。

 

日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん

 

 

1つの事象に対する捉え方はさまざま

 

――物事を多角的にとらえるには、どんなことを意識すればよいのでしょうか。

 

物事を1つの視点からではなく面で捉え、立体的に理解することが大切です。サイコロをイメージするとわかりやすいかもしれません。サイコロの各面が異なる視点を表すように、1つの物事について社会的、経済的、倫理的な視点を取り入れて、さまざまな側面から見ることが重要です。技術的、環境的、文化的などさまざまな視点が挙げられます。

 

多角的な視点とは、物事を1つの視点からではなく面で捉え、立体的に理解すること

 

 

多角的な視点は「オープンマインド」と「リベラルアーツ」が育む

 

――多角的な視点が身についている人の特徴を教えてください。

 

自分と異なる意見や主張も受け入れられる柔軟性があり、リベラルアーツ(一般的な教養)が身についているイメージがあります。

物事をさまざまな視点から見るためには多くの情報を集める習慣づけが必要です。複数の視点や意見を比較することから、物事の本質に迫ろうとするクリティカルシンキング(批判的思考)が養われているのも特徴です。

多角的な視点を持っている人はさまざまな視点から物事を考えられるため、新しい考え方や意見を受け入れやすいです。いわゆるオープンマインドを持っています。

自分の周りにもいませんか?否定ではなく「そうだよね」「こういう意見なんだね」「わたしはこう思ってるよ」と受け入れてくれる人。オープンマインドな人は偏見を持たず、共感力も高いんです。

リベラルアーツは西洋の教育の基本で、欧米の大学では最初の1、2年でリベラルアーツを学ぶことが多いです。私がアメリカに留学して一番驚いたのは、周囲の人が詩や哲学について話していることでした。最近は日本でもリベラルアーツ教育が積極的に取り入れられていますね。

リベラルアーツが身につくと、物事をあらゆる面から受容しようとするマインドが生まれます。

 

多角的な視点が身についている人は、自分と異なる意見や主張も受け入れられる柔軟性があり、リベラルアーツ(一般的な教養)が身についている

 

 

多角的な視点を持つと課題解決力、社会への参加意識が高まる

 

――多角的な視点を身につけると、どのようなメリットがあるのかを教えてください。

 

多角的な視点を持つと、問題解決能力が向上するほか、社会問題への関心が高まります。また、就活やキャリアアップを図る際の行動指針としても役立ちます。

現代はフィルターバブル状態にあります。フィルターバブルとは、検索履歴やクリック履歴が分析され、自分の興味・関心に近い情報ばかりに囲まれてしまう現象のことです。インターネットに載っている広告や検索結果、YouTubeやInstagramの情報などは利用者の興味関心が高いと思われる情報が上位に表示されるようにアルゴリズム(計算方法)が設定されています。

このため、自分の興味・関心から外れる情報に触れる機会が少なくなりがちです。受け取る情報が偏っている人同士だと、建設的な話し合いが難しくなり、批判の応酬になりがちです。

しかし、さまざまなメディアから情報を得ていれば、包括的に物事を理解できます。異なる意見も柔軟に受け入れられるようになり、適切な解決策を見つけられるようになります。

多角的な視点を身につけるメリットには、シティズンシップの醸成もあげられます。シティズンシップとは社会の一員として主体性を持って社会課題に取り組む姿勢のことです。特に、社会や政治への関心が低いとされる若者にとって、多角的な視点は社会問題への関心を高め、自発的な社会参画を促します。

また、世界の情勢にも興味を持つようになるでしょう。「海外ではどうなっているんだろう」と、広い視野で物事を考えるきっかけになります。

 

就活やキャリア形成で納得感のある意思決定ができる

 

社会に関心を持つことは就活や人材としての価値向上にも役立ちます。さまざまな情報に触れることで、行動する気持ちも自然に湧いてくるでしょう。就活ではインターンシップや企業が企画する座談会に参加するなど、自発的に動けるようになります。

また、先ほどさまざまなメディアから情報を得ることが大切だと話しました。就活や転職を考えた時も、情報が限定的であれば選択肢の幅は広がりません。視野を広げることで、日常生活を送るだけではあまり目にすることがない企業についても知ることができます。幅広く情報収集することで就活生に人気の大企業だけではなく、自分の関心のある企業について把握できるようになるため、納得感のある意思決定にもつながります。

ビジネスにおいては業界のトレンドや新しい技術に関する情報に常に触れることで、スキルアップのヒントが得られます。組織にとっても価値ある人材に成長できる可能性も高まります。また、多角的な視点を持つと、自己分析と自己理解が進み、キャリアの方向性を主体的に決定できるようになります。

 

多角的な視点を持つと課題解決力、社会への参加意識が高まり、就活やキャリア形成で納得感のある意思決定ができる

 

 

多角的な視点を身につける4つの方法

 

――多角的な視点を身につける方法について教えてください。

 

クリティカルシンキングを実践する、実際に体験する、他者と共に成し遂げる経験を積む、活字に触れるといった方法が挙げられます。

多角的な視点を身につける方法を説明する寺島さん

 

クリティカルシンキングを実践する

 

多角的な視点を養うには、クリティカルシンキング(批判的思考)を実践することが大切です。「この情報は本当に正しいのか?」と日頃から考える習慣をつけましょう。批判的に考えることと、否定的に考えることは異なりますので注意しましょう。

情報の信頼性を確認するためには、異なる視点からも考察します。異なるメディアで同じ話題について調べてみることも大切です。納得がいくまで考え抜く、そのプロセスが欠かせません。

関連記事:メディア情報リテラシーとは? 身につけるべき理由や身につけ方を専門家が解説

 

実際に体験する

 

実際に体験することも大切です。SNSで見たうわさ話に近い情報をうのみにしてはいけません。実際に現地に行ってやってみることで、より深く理解できます。例えばキャンプをする、美術館や博物館に行く、ワークショップに参加するなど、小さな経験を積み重ねることが大切です。

海外に行く機会がない人は、日本に来ている海外の方と交流してみましょう。異文化に触れることでも新たな視点を得られます。

 

他者と共に何かを成し遂げる経験を積む

 

複数の人と対等な立場で力を合わせて働く経験も成長につながります。

例えば、大学の授業では複数の学生で議論して地域や企業の課題解決策を考えるという課題が与えられることがあります。地方に住んでいたり、海外に暮らしていたりとさまざまな背景を持つメンバーと意見交換をすることで、多角的な視点が養われます。

ビジネスシーンでも1人で完遂する仕事はほとんどありません。チームメンバーだけでなく、異なる企業や部門の人と協働する機会も増えます。さまざまな立場の考え方に触れることで、社会人に必要な視野の広さや柔軟性を高められるでしょう。

また、大学のサークル活動やOB訪問、異業種交流会、ビジネスセミナーに自ら積極的に参加するのも貴重な経験です。地域の行事に参加し、異なる年代や背景を持つ方と交流するのも良いでしょう。

 

活字に触れる

 

本や新聞など、活字に触れることも重要です。特に読書は新しい視点や価値観に触れるきっかけになり、柔軟な思考を養う方法の1つとして有効です。SNSや動画サイトを見ている時間と比べ、本を読む時間は圧倒的に少なくなっていませんか。

本を読む習慣がない人は、動画配信サイトで本を解説している動画を観たり、オーディオブックを活用したりするのも良いでしょう。耳で情報を得られるため、時間がない人でも活用しやすいです。

私は紙の本を読むだけが読書だとは思いません。ぜひ自分に合った方法を探してみてください。筆者の意見が含まれた情報をうのみにせず、疑いの目を持つことも大切です。

 

多角的な視点を身につける方法は、クリティカルシンキングを実践する、実際に体験する、他者と共に成し遂げる経験を積む、活字に触れるの4つ

 

 

多角的な視点を磨く新聞の読み方を紹介

 

――活字に触れることの大切さを説明する中で、新聞を読むことも勧められていました。多角的な視点を身につける上で新聞を読むメリットを教えてください。

 

新聞には身近なニュースから、政治・経済などの分析に至るまで幅広い記事が掲載されており、自分が興味関心のない分野の情報にも触れられます。そのため、より広い視野で物事を捉えるのに役立ちます。

特定のSNSやメディアのみに依存して情報を得ると、見方が一方的になりがちですが、新聞はさまざまな角度からの意見や分析を掲載しており、異なる立場や考え方に触れるきっかけになります。

新聞が発信する情報は厳しいファクトチェックを経て発信されており、信ぴょう性が高いため、その内容を基に批判的に考える練習にもなるでしょう。クリティカルシンキングを実践することで、単に情報を受け取るだけでなく、その背後にある意味や影響を理解できます。

 

――新聞の効果的な読み方について教えてください。

 

私がおすすめしたい読み方は、多様な新聞を読むこと、複数の新聞の社説を比較すること、海外の新聞を読むことです。

 

世の中にある多様な新聞を読む

 

日本にはさまざまな新聞があります。

全国で読める新聞のほか、地元の情報を中心に報じる地域密着の新聞もあります。農業や水産業、工業など特定の産業や業界に特化した専門紙もあります。

特に専門紙には企業の新商品や投資情報など、さまざまな情報が掲載されています。就活生なら、自身の志望する業界の最新情報を得られるでしょう。入社後も継続して新聞を読むことで、競合他社の動向や市場の変化を把握でき、戦略立案や意思決定に活用できます。営業職では取引先とのコミュニケーションにも大いに役立つでしょう。

住んでいる地域によって読める新聞は異なります。多くの新聞が無料で自宅に一定期間配達してくれる試し読みサービスを提供しています。地域の図書館で読んでみるのも良いですね。実際に読んでみて「いいな」と思ったら、ぜひ続けてみましょう。毎日の習慣にすることで、ライバルに大きな差をつけることができます。

 

新聞の社説を比較すると多様な見方が一目瞭然

 

複数の新聞を読み、社説を比較するのも有効です。

社説を読み解くと、同じ事件でも新聞社や立場によって異なる意見があることを理解できます。歴史的、経済的、社会的な背景を学ぶきっかけになり、多角的に物事を理解する力が養われるでしょう。

 

海外の新聞を読むことで新たな気づきも

 

海外の新聞を読むようにすると国際的な視点が身につくでしょう。留学先のアメリカで寮生活をしていた時、ゼミの先生の誘いでニューヨークの国連本部に行く機会がありました。プレスルームには世界中の新聞が置かれていて、国連に加盟する各国の新聞を読み比べる中で、同じ出来事に対する社説や解釈がこれほどまでに違うのかと、強い衝撃を受けました。

中でも印象的だったのは、アメリカ国内で起きた銃乱射事件に関する各国の報道でした。アメリカでは、この事件を受けて銃規制をさらに強化する法案が議論されていましたが、市民に銃の所持を許可している国とそうでない国で、焦点の当て方や論調がまったく違っていた点は興味深かったです。

経済についても、国によって見方が大きく異なることに気づかされました。アメリカのサブプライムローン問題が顕在化した頃、この問題を背景に原油価格が高騰し、経済が悪化した国がある一方で、その状況を利用して豊かになった国もあるのを目にした時、世界の出来事は表裏一体であると実感しました。

海外の新聞も一緒に読むことで、自国だけでは見えない多様な視点を学び、より深い理解が得られると思います。

今では海外のニュースサイトもウェブブラウザの機能を使えばクリック1つで日本語に翻訳できます。例えばニューヨークタイムズやBBCなど、有名な海外メディアのトップページを見てみるだけでも面白いと思います。他の言語で発信されている情報を知ることは、貴重な学びや成長の糧になるでしょう。

 

おすすめしたい新聞の読み方は、多様な新聞を読むこと、複数の新聞の社説を比較すること、海外の新聞を読むこと

 

 

大学生が新聞を読むとこんな気づきがあった!

 

ここまで、寺島さんに新聞の読み方について聞きました。ここからは大学生の方々に新聞の試し読みを体験してもらい、読み方で工夫したこと、就活への活用方法などを語ってもらいました。

 

ニュースの重要度が一目でわかり読みやすい

 

――実際に新聞を読んでみていかがでしたか?

 

試読参加者

難しい文章は敬遠していましたが、新聞はすっと読みやすく感じました。テレビのニュースも見るようになり、興味の幅が広がったと感じています。朝、スマホのブルーライトを浴びるよりも、紙の新聞の方が気分が良く、心地良い一日を迎えられる気がしました。

 

試読参加者
日頃、なかなか活字に触れる時間を取れていない私にとっても、新聞は読みやすく感じました。大事なニュースが大きく掲載されているので記事の概要をすぐにつかむことができました。写真や図解の色使いがきれいで、視覚的にも楽しめました。4コマ漫画は大人になった今見ても楽しいですね。

 

試読参加者
新聞には経済やスポーツ、時事ニュースなどさまざまなトピックがあり、楽しめました。見出しの大きさや記事のボリュームで、どのニュースが大事なのかが一目で分かり、効率良く読むことができました。

大学生が新聞を試し読みした感想

 

普段意識していない情報に触れられた/自分に関わる情報を深く知れた

 

――興味を持った記事について教えてください。

 

試読参加者
アメリカの大統領選のニュースは、最初は「自分の生活には関係ない」と思っていました。ただ、新聞を読んで日本の株価の暴落がアメリカの株式市場からの影響だったことを知り、世界の出来事が日本にも大きな影響を与えることを改めて感じました。新しい視点が広がったと思います。

 

試読参加者
オリンピックの記事は非常にインパクトがありました。普段あまりテレビを見ない私でも、オリンピックの試合結果や選手の状況を詳細に知ることができて良かったです。また、円安に関する記事を読むことで、以前よりも知識の幅を広げることができました。特に、国内外の経済への影響について、詳しくかつわかりやすく解説されていたため、経済全体の動きについてより深く理解できたと感じています。

 

試読参加者

気になったのは、日経平均株価が下落したというニュースです。世間で「大変だ」と騒がれる前に「下落する可能性がある」と新聞で予測されていました。新聞を読むことで、自分に関わる情報を追い、役立つ対策を考えられると感じました。また、スポーツが好きなので、甲子園で活躍している高校球児の記事が読めたのも良かったです。

 

効率よく読むコツは見出しと写真のザッピング

 

――新聞を読む時に工夫した点はありますか?

 

試読参加者
自分は、興味のある記事を中心に読みました。まずは新聞を広げた時、見出しと大きな写真から「後でじっくり読みたい」「ここは飛ばしても良いかな」と思う部分をざっと確認しました。特に、自分は金融の会社に就職する予定なので、金融系のニュースを中心に、どこにあるかを探して読みました。

 

試読参加者
全部をじっくり読むというよりは、まずは一通り目を通して大きな見出しをチェックしていきました。見出しで概要を把握してから、自分が興味を持ったニュースやトピックを深く読んでいました。時間が限られている中でも効率よく情報を吸収できたと思っています。

 

試読参加者
新聞に書かれているニュースだけでなく、ネットでも調べて、さらに知識を深める工夫をしました。複数のメディアを比較することで、より多角的にニュースの背景を知ることができたように感じます。

大学生が考える効果的な新聞の読み方

 

新聞を読んでいると、面接で驚かれる

 

――新聞は就活でどのように役立つと思いますか?

 

試読参加者
新聞がなかったら就活は大変だったと思います。私は政府系の金融機関を中心に就活をしていました。面接ではニュースを深掘りする質問が多く、主に金融や国際問題に関する最近のニュースが話題になりました。面接官も日々新聞から情報を得ていると思うので、新聞を読んでいると同じ視点で話せることが多く、時には「そんなことまで知っているのか」と驚かれるケースもありました。

 

試読参加者
新聞を読むことで語彙(ごい)が増え、表現力が高まるのではないかと感じました。新聞は要点を的確に伝える言葉が選ばれているので、文章を組み立てる力も身につきそうです。語彙が増えることで、面接時に自分の考えを簡潔にわかりやすく伝えられるようになると思います。また、面接官との共通の話題が広がるのではないかと思っています。

試読参加者
ネットの記事と新聞の大きな違いは、関わっている人数だと思います。新聞記事は多くの人が関わり、情報の正確さや内容のわかりやすさを確認しながら作られています。新聞記事を読むことで、わかりやすい文章の構造や構成、書き方などを学べました。結果的に、エントリーシートを書くうえで必要な文章力も高まるのではないかと思いました。

大学生が就活において新聞が役立つと感じる理由

 

多角的な視点を身につけて就活・キャリア形成に役立てよう

 

今回は「多角的な視点」をテーマに、日本メディアリテラシー協会の代表理事・寺島絵里花さんに話を聞きました。物事を多角的に見られるようになると、社会の一員としての意識や問題解決能力などが高まります。

多角的な視点を身につける方法には、クリティカルシンキングを実践することなどが挙げられます。普段慣れているSNSや動画配信サイトで情報を仕入れるだけでなく、新聞を読むのも効果的です。複数の新聞の社説を比較するとさまざまな物の見方があることを直感的に感じられます。

ぜひこれらの方法を取り入れて、就活や社会人生活に生かしてみてください。

 

日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん日本メディアリテラシー協会 代表理事 寺島絵里花(てらじま・えりか)さん

東京都出身。子どもや保護者のメディア情報リテラシーの意識向上に情熱を注ぐ。学術的な知識と母としての実体験を併せ持ち、メディア情報リテラシー教育の啓蒙活動をしている。行政、企業、親、学生を対象とした講演、研修などを行っている(過去5年間で500回以上、8万人の参加者)。

 

2024年10月1日公開
※インタビュー中のトピックは取材時のものです